タンジェリン・ドリーム(Tangerine Dream)は、ドイツの電子音楽グループ。
1968年に結成され、1970年代にはプログレッシブ・ロック・バンドのひとつとして人気を博した。カン・アモン・デュールII・クラフトワーク・ノイ!らとともにクラウトロックの代表的なバンドである。「電子音楽」「ニューエイジ」「アンビエント」など現代の音楽シーンに少なからぬ影響を残した。2015年に、主宰者であるエドガー・フローゼが死去。残されたメンバーが遺志を引き継いで活動を続けている。
エドガー・フローゼは1944年、ドイツのティルジット(現在はロシア領)で生まれた。彼は1962年ベルリン・アカデミーに入学し、同年前身となるロック・バンド「ザ・ワンズ」を結成。1967年にはシュールレアリスムの画家サルバドール・ダリとコラボレーションを行っている。同年、ザ・ワンズを解散し、新たにタンジェリン・ドリームを結成[1]。
1969年にメンバーを一新し、クラウス・シュルツェ、コンラッド・シュニッツラー、エドガーというメンバーで「オール(Ohr)・レーベル」と契約。翌1970年、ファースト・アルバム『エレクトロニック・メディテイション』をリリース。後年の視点からするとさほど電子的とは言えないが、エレクトロニクス処理を施したギター、オルガン、チェロ、フルート、ドラムなどによるフリーミュージックを演奏している。
このあと、クラウス・シュルツェとコンラッド・シュニッツラーは脱退。エドガーは「アジテーション・フリー」のクリストファー・フランケとスティーヴ・シュローダーをスカウトしてメンバーを補充。その後すぐにシュローダーは「ジ・アンツ」のピーター・バウマンと交代。このころから現代音楽家のトーマス・ケスラーの影響を受け、急速に電子音楽化している。
1971年『アルファ・ケンタウリ』、1972年『ツァイト』、1973年『アテム』の各アルバムをリリース。いずれも現代音楽的で難解な作品だが、1972年末のドイツの『サウンズ』誌の人気投票で最優秀グループに選ばれている。
1973年、4thアルバム『アテム』が、当時のイギリスの人気ラジオDJのジョン・ピールにプッシュされて話題となり、イギリスの新興レーベル「ヴァージン・レコード」(当時はポリドール・レコード傘下)と契約し、世界規模で再デビューした[2]。
1974年にアルバム『フェードラ』、1975年にアルバム『ルビコン』をリリース。ミュージックシーケンサーを全面的に使った最初期のポップミュージック作品であり、当時行き詰まりつつあったプログレッシブ・ロック・シーンに新風を吹き込んだと評された。しかしその後のグループの歩みは必ずしも順風満帆とはいえない。
1976年のアルバム『ストラトスフィア(浪漫)』からは、リズム、メロディ、ハーモニーという伝統的な音楽語法に回帰し、従来のファンを戸惑わせた。しかし、のちに広く認知されたタンジェリン・ドリームの音楽スタイルは、ここから出発したといえる。
1977年、ウィリアム・フリードキン監督の映画『恐怖の報酬』のサウンドトラックを担当し、高く評価された。1980年代にはサントラの仕事がメインのようになり、ホラー・SF系の映画のサントラをさかんに手がけ、その典型的なスタイルを作った。
ライブ・コンサートを数多くこなし、演奏を繰り返すうちに曲を練り上げるという「半即興」スタイルをとった。
ヴァージン・レコードとの契約は1983年のアルバム『ハイパーボリア』で終了。そのあとは、ジャイブ・エレクトロ、プライベート・ミュージック、ミラマー、TDI(自主レーベル)というレーベルを渡り歩いている。同年、初来日公演。
1987年に主要メンバーであったクリストファー・フランケが脱退。
1990年にエドガーの息子ジェローム・フローゼが加入し、しばらく父子のふたりで活動していたが、その後、ジェロームはグループを離れている。
2009年、26年ぶりの来日公演を開催。
2011年より、日本の女性ヴァイオリニスト、山根星子が加入[3]。アルバム『Edgar Allan Poe's The Island Of The Fay』に収録されている「Fay Bewitching The Moon」での即興演奏が話題となる。
2015年1月20日、主宰エドガー・フローゼがウィーンにて肺塞栓症で死去。残されたメンバーにより活動は継続し、2017年にアルバム『Quantum Gate』を発表。同作にはエドガーも作曲のクレジットに含まれている。
2019年、デビュー50周年を記念し、過去の楽曲をリメイクしたアルバム『Recurring Dreams』をリリース[4]。翌2020年、アルバムに伴う11年ぶりの来日公演の開催を発表するも、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で中止した[5]。6月、これまでサポートメンバーだったキーボード奏者パウル・フリックが正式に加入したが[6]、暫くしてからウルリッヒ・シュナウスが離脱している。
2022年、約5年ぶりのオリジナル・フルアルバム『Raum』を発表[7]。コロナ禍の事情で延期中止が続いていた中で、久々のツアーを開催した。
※2022年4月時点