最も有名な作品に、蒐集したメルヘンに風刺を盛り込んでまとめた Volksmärchen der Deutschen(1782年–1786年)がある。このほか、バレエ作品『白鳥の湖』は Volksmärchen der Deutschen の1編 Der geraubte Schleier(『奪われたヴェール』)から着想されたと言われている。
1760年から1762年にかけて、ムゼーウスは最初の作品 Grandison der Zweite(第二のグランディソン)全3巻を出版し、その後1781年から1782年にかけて改作して Der deutsche Grandison(ドイツのグランディソン)と改題して刊行した。これは、神聖ローマ帝国で心酔する者が多かった、サミュエル・リチャードソンが作り出した英雄サー・チャールズ・グランディソンを風刺したものであった[3]。
Volksmärchen der Deutschen は、17世紀後半をピークとして関心が失われつつあったおとぎ話が、ロマン主義およびロマン主義ナショナリズムの勃興によって再び脚光を浴び始めた最初期にまとめられたもので、この流れは19世紀に入っても続き、ベネディクテ・ナウバートやグリム兄弟などに引き継がれていった[7][8]。
Volksmärchen der Deutschen は1903年のデュッセルドルフ版など何度も再版された他、他言語にも翻訳された。ウィリアム・トマス・ベックフォードは5つの物語を抜粋して英訳したものを1791年にPopular Tales of the Germans として発表し[9]、トーマス・カーライルも1827年に3話を英訳して German Romance を発表している[10]。この他、J・ルフェーブルの Contes populaires des Allemands[11]やイザベル・ド・モントリューの抜粋訳[12](いずれも1803年)、さらにはシャルル・ポール・ド・コックが序文を寄せた全訳書(1826年)[13]を初めとして、フランス語訳も多数出版された[14]。
ヘンリー・A・ポクマンら[15]によれば、ワシントン・アーヴィングが1820年に発表した『スリーピー・ホロウの伝説』に登場する「首なし騎士」は、Volksmärchen der Deutschen のうちの1編、Legenden vom Rübezahl(リベザルの伝説)の結末にインスピレーションを得たものとされる[16]。
また、Volksmärchen der Deutschen の1編、Der geraubte Schleier(奪われたヴェール)は白鳥の乙女を扱った物語で、ピョートル・チャイコフスキーによる1876年のバレエ『白鳥の湖』のプロットの一つとされているが、ロシアの振付家フョードル・ロプホーフらは『白鳥の湖』は純粋にロシア起源のものであると主張して、ムゼーウスが作者であるという説に異を唱えている[17]。
Volksmärchen der Deutschen からフランス語に翻訳された1編、Stumme Liebe(フランス語版では L'Amour Muet、「静かなる愛」の意)は、ドイツの別の怪談7編とともに1812年にジャン・バプティスト・ベノワ・エリーが発表した『ファンタスマゴリアナ[要曖昧さ回避]』に収められている。1816年の夏にこれを朗読したバイロン卿、パーシー・ビッシュ・シェリー、メアリー・シェリー、クレア・クレアモント、ジョン・ウィリアム・ポリドリは、バイロン卿の提案でそれぞれ1編ずつ怪談を書くことにした(ディオダティ荘の怪奇談義)。このときバイロン卿が書いた Fragment of a novel は現代に連なる吸血鬼物語の最初のものとされており、ポリドリはこれを基に『吸血鬼』を執筆した。また、メアリー・シェリーは『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』を執筆している。『ファンタスマゴリアナ』の8編のうち5編は1813年にサラ・エリザベス・アターソンが Tales of the Dead として英訳しているが、この際に Stumme Liebe は The Spectre-Barber(幽霊理髪師)というタイトルの短編に改められている。
ムゼーウスが蒐集した民話は現在でも翻案されることがあり、2009年の映画 The Pagan Queen はムゼーウスが蒐集したチェコの伝説の女王リブシェとその夫プシェミスルの話を基にしている。
^Jean, Lydia (2007). “Charles Perrault's Paradox: How Aristocratic Fairy Tales became Synonymous with Folklore Conservation”. Trames11 (61): 276–83.
^"Richilda; or, the Progress from Vanity to Vice", "The Chronicles of the Three Sisters", "The Stealing of the Veil; or, the Tale a la Mongolfier", "Elfin Freaks; or, the Seven Legends of Number-Nip" and "The Nymph of the Fountain".
^Contes populaires des Allemands. Leipzig: Friedlein. (1803) containing "La Chronique des trois Soeurs", "Les écuyers de Roland", "Le Voile enlevé", "L'Amour muet", "Rubezahl", "Libussa", "Melechsala", "La Nymphe" etc.
^Recueil de contes. Geneva: Paschoud. (1803) containing "Le voile enlevé ou les cygnes" and "Melechsala".
^Contes de Musaeus. Paris: Moutardier. (1826) containing "La Chronique des trois Soeurs", "Richilde", "Les Écuyers de Roland", "Libussa", "La Nymphe de la Fontaine", "Le Trésor du Hartz", "Légendes de Rubezahl", "La Veuve", "L'Enlèvement (Anecdote)", "La Poule aux OEfs d'or", "L'Amour muet", "Le Démon-Amour", "Mélechsala" and "Le Voile enlevé".