前作『BEAT EMOTION』(1986年)リリース後、BOØWYは「ROCK'N ROLL CIRCUS TOUR」と題したコンサートツアーを同年11月11日の石川厚生年金会館からツアーファイナルとなった1987年2月24日の日本武道館公演まで、31都市全37公演を実施した[5][6]。同ツアー中において12月16日の長野市民会館公演終了後、ホテルのバーに全員が集合し解散に関しての話し合いが行われた[7][8]。事の発端は布袋が海外への進出やデヴィッド・ボウイとの共演を望んだためにバンドを脱退すると発言した事であり[9]、この時点では休養期間取得後にもう1枚アルバムを制作するという形でメンバー間で合意する事となった[7]。しかしツアーファイナルとなった日本武道館公演終了後、マネージャーの土屋浩により招集されたメンバーは表参道のブルーミン・バーに集合し、プロデューサーである糟谷に解散する意向である事を報告した[10]。
7月22日には6枚目のシングル「Marionette -マリオネット-」をリリース[13]。これまでシングルでの第1位獲得作品はなかったが、ラブソング中心であった当時のヒットチャートにおいて男女の恋愛をテーマにしない楽曲としては異例の売上第第1位を獲得する[17]。7月31日の神戸ワールド記念ホールおよび8月7日の横浜文化体育館ではデビュー以来のほぼ全ての楽曲を演奏するという4時間に及ぶ長時間ライブ「CASE OF BOØWY」を敢行したが、ほぼ全曲を演奏するというスタッフサイドの無謀な提案をメンバーが受諾した背景には、「どこかに解散を見据えていたからだったかも知れない」と土屋は述べている[13]。8月22日および23日にはグリーンピア南阿蘇アスペクタにて開催されたイベントライブ「BEAT CHILD」に参加、オールナイトイベントであったが当日は台風が直撃し、寒さや睡魔に襲われた観客が病院に担ぎ込まれるような豪雨の中での演奏となった[18][19]。
氷室は後に本作に関して「この頃からけっこう自分の精神性とかについて突き詰めて考え始めてる。だんだん真面目になってきてる」と述べており、氷室のソロシングルである「ANGEL」(1988年)や「DEAR ALGERNON」(1988年)の歌詞に繋がるベースの部分をすでに本作時点で指向していたと述べている[22][23]。氷室は「『BEAT EMOTION』で一種極めた大衆芸能的な部分をブッ壊そうと思いつつ、それがうまくいかないジレンマが出てる」と述べ、当時は自身が過大評価されているとの思いから過度なプレッシャーを感じていたと告白している[22][23]。氷室は同年のBOØWY解散は正解であったとした上で、集大成的な作品を残して解散する意思があったとするならば4枚目のアルバム『JUST A HERO』(1986年)をリリースした時点で解散していたと述べ、本作は集大成的な次元で制作された作品ではなく、精神性やメンバーの音楽に対する接点、音楽と自身との距離感などを重視しており「その時点で自分のできる限りのことを注ぎ込んて作ったアルバムっていう意識がある」と述べている[22][23]。
音楽誌『別冊宝島1322 音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にてライターの宮城正樹は、「多種多様なサウンドとファンタスティック・ホラーとも呼ぶべき歌詞ワールドを展開している」と述べ、「LIAR GIRL」は「メロディアスなグラムロック」、「ANGEL PASSED CHILDREN」は「オーソドックスな8ビート・ロック」、「LONGER THAN FOREVER」は「ミディアム・アップのラブソング」、「PSYCHOPATH」は「タイトなニュー・ウェイヴ調の英語詞ナンバー」、「CELLULOID DOLL」は「ヘヴィメタルチック」、「FANTASTIC STORY」は後の氷室ソロにおける「キャッチーさを垣間見せる」、「季節が君だけを変える」は「珍しいニューミュージック風味」であるとそれぞれ指摘し、多彩ながら統一感のある作りが「ピークに達したという感がある」と述べた[32]。歌詞に関しては、当時映画界ではスプラッター映画が主流であった事を指摘した上で、本作では時代の潮流に乗らず「マリオネット」や「セルロイド人形」、「ガラス細工」などヨーロッパのゴシック調のスタイルで描かれているとし、「Baby」を多用していた氷室の歌詞の世界観を拡大したと述べている[33]。
楽曲
SIDE 1
「LIAR GIRL」
ディレクターの子安次郎はBOØWYがイントロに特にこだわっていたバンドであると推測し、個人的に好きなイントロのベスト3に入ると述べている[26]。また、終わりの始まりを感じさせるイントロであるとも述べ、結果として最後のスタジオ・アルバムのイントロであり最後のコンサートツアーのイントロにもなった事から「最終ドラマの幕開けであった」とも述べている[26]。『音楽誌が書かないJポップ批評18 BOØWYと「日本のロック」』では、「後期のBOØWYを代表する、大ホールでの演奏を意識したノリのいいナンバー」と記している[34]。『音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にてライターの西岡ムサシは、本作のオープニングを飾るアリーナ・ロックであると述べ、冒頭のギターリフは『オペラ座の怪人』(1986年)をベースにしていると指摘している[35]。書籍『PERFECT BOOK BOØWY』では、「シンセのリフレインから楽器隊が雪崩れ込むイントロが印象的」と記されているほか、歌詞の内容ついては「都会的な恋の駆け引きを歌ったもの」であり氷室による特徴的な単語が使用されていると記している[36]。
「ANGEL PASSED CHILDREN」
子安は本曲に関してアルバムのテーマである「PSYCHO」という精神世界の一表現であったのではないか、当時のメンバーの精神状態から生み出された曲ではないかと推測した[26]。ライブにおいてもアルバムと同様に「LIAR GIRL」の後に間髪いれず演奏された[34]。『音楽誌が書かないJポップ批評18 BOØWYと「日本のロック」』では、初期BOØWYを彷彿させる曲調であると指摘し、全ての曲が肯定的に解釈される現状に対する皮肉を描いたようにも取れると記している[34]。『音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にて社会学者の木島由晶は、「跳ねたギターに明るい歌メロ、という彼らのポップネスを体現した曲」であると述べている[37]。書籍『PERFECT BOOK BOØWY』では、ハネているシャッフルビートの楽曲であり、歌詞については「冷たい人間関係に侵された社会をひたすら皮肉った歌詞」であると記しており、曲中の氷室によるシャウトについては「社会から抑圧された若者達の心情を代弁しているかのようである」と主張している[36]。
「LONGER THAN FOREVER」
ほとんどの楽曲でダウンピッキング奏法の松井が、あえてオルタネイト奏法で演奏している。子安はBOØWY後期の代表曲の1つであると述べ、BOØWYが解散せずに活動を続けていたら本作から本曲を含めて何曲かシングルカットされたのではないかと述べている[26]。『音楽誌が書かないJポップ批評18 BOØWYと「日本のロック」』では、「ONLY YOU」の延長線上にある曲とも解釈できると記している[34]。『音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にて木島は、「BOØWYの築いたロックンバラードの傑作のひとつ」と述べ、歌詞はバーにおける大人の男女のロマンティックな情景が描かれているとした他、サウンド面ではアコースティック・ギターによって温かみを導入し、サビのメロディではボーカルにコーラスが美しく寄り添っている事からデビュー当時の強面な印象から大きく変化した事を指摘している[38]。フジテレビ系バラエティ番組『いきなり!フライデーナイト』(1986年 - 1989年)のオープニングテーマとして使用された[34]。書籍『PERFECT BOOK BOØWY』では、メジャーコードを多用した速いビートのポップな楽曲であると記されており、歌詞の内容は「愛する女性に対し自らの弱さをさらけ出しながら、永遠の愛を誓う、というメロウな歌詞」であると指摘したほか、「甘いテーマに関わらずどこか切なさが漂う楽曲」であるとも記されている[36]。
「GIGOLO & GIGOLET」
子安は本曲を「無駄なことをすべて排除した、ソリッドでシンプルな楽曲」であると述べ、短い時間の中でメンバーの個性が表現されておりそれぞれのパートの主役が明確に構成されていると述べている[26]。ライブでは曲前に「集まってくれたGIGOLO&GIGOLETに贈ります」とMCされており、バンドブーム全盛期には多くのコピーバンドがこのMCを真似していた[34]。『音楽誌が書かないJポップ批評18 BOØWYと「日本のロック」』では、間奏がアメリカ合衆国のテレビドラマ『スパイ大作戦』(1966年 - 1973年)のようであると指摘した[34]。『音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にてライターの宮城正樹は、当時イギリスでは下火となっていたニュー・ウェイヴへのオマージュのような曲であると指摘した他、ニュー・ウェイヴの曲で頻繁に使用された「Communication」や「Temptation」などの言葉が歌詞に使用されている事を指摘している[35]。書籍『PERFECT BOOK BOØWY』では、刹那的な恋愛を題材とした「享楽主義じみた男女の一夜、その熱さと虚しさ、というテーマ」の楽曲であると記しており、初期の楽曲であるアルバム『INSTANT LOVE』(1983年)の表題曲を彷彿させると指摘した上で、「至る所に散りばめた言葉遊びからは、ただならぬ表現力の進歩を感じる」と記している[36]。
「RENDEZ-VOUS (LIVE IN HAMBURG JULY 1987)」
ライブ録音の音源のように聞こえるが、実際はスタジオで録音されたものであり、遊び心で作られた疑似ライブ風の演出である[34]。当時は演出であると知らないリスナーから多くの問い合わせがあったと子安は述べている[26]。本作では本曲や「PLASTIC BOMB」など布袋のコーラスやボーカルパートが多い事から、子安は布袋のソロ活動への試行錯誤がすでに始まっていたと推測している[26]。『音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にて文芸評論家の町口哲生は、本作がストーリー性の高い歌詞である事を指摘した他、疑似ライブの模様がレーパーバーンの雰囲気があると指摘した[39]。書籍『PERFECT BOOK BOØWY』では、ライブ録音風に架空のミックスが施された楽曲であることを指摘した上で、「ミドルのシャッフルビート+コーラスが非常にロック」と記しており、歌詞については「ファンタジックな単語を多用しながら、その内容はといえばなかなかにシニカルである」と記している[36]。
7枚目のシングル候補曲であった[26]が、メンバーの意向によりシングルカットされなかった。子安は「最もBOØWYらしい、疾走感あふれる名曲」と述べ、アルバム『MORAL』(1982年)収録の「ON MY BEAT」を彷彿させると述べている[26]。『音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にてライターの安部薫は、完全なBOØWYサウンドの曲であると指摘し、氷室と布袋の歌の掛け合いなどがスリリングであるとした上で「聴くほどに解散がもったいなく思えてしまう」と述べている[39]。トリビュート・アルバム『BOØWY Respect』(2003年)において、JAPAN BLOODによるカバーが収録されている[40]。書籍『PERFECT BOOK BOØWY』では、「ハイテンポなビートと攻撃的な歌詞」で構成された初期の楽曲を思わせる組み合わせになっていると指摘した上で、「シンプルかつコンパクトに仕上げた、彼らの成長ぶりが伺える一曲」であると記している[36]。
「PSYCHOPATH」
サビの歌詞は「精神病質者はあなたの心の中に住んでいる」という内容であり、後に氷室のソロ作品でリリースされたシングル「DEAR ALGERNON」(1988年)の精神世界に繋がったのではないかと子安は推測している[41]。歌詞中に登場するフィールマン博士の名はその後のツアータイトルにも使用されたが、誰であるのかは諸説あるが不明となっている[34]。『音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にてライターの永井純一は、本曲を「やや難解な楽曲の比重が増えだした後期を象徴する1曲」であると指摘し、アート志向が全面に押し出された曲であると述べている[39]。書籍『PERFECT BOOK BOØWY』では、本曲が様々なミュージシャンから評価された「氷室の作曲センスが光る一曲」であると記しているほか、「この曲の格好良さが理解できればかなりのBOØWY通」と主張したほか、「全編通して漂う不安定な雰囲気はまさに『精神異常者』と冠するに相応しい」と主張している[36]。
「CELLULOID DOLL」
子安は本曲の歌詞のテーマが解散後を見据えた自身の心境を綴ったものではないかと推測した他、実験的な曲であり歌唱な困難でありながらも歌い上げる氷室のシンガーとしての力量を見せつけられたと述べている[41]。『音楽誌が書かないJポップ批評18 BOØWYと「日本のロック」』では、氷室の個性が突出した作品であると指摘し、一音ずつ上がっていくサビの展開などがそれまでのBOØWYの曲とは異なる印象であると述べた他、歌詞には初期の頃のシニカルな部分が感じられ「原点回帰」ならぬ「原点懐古」的であり解散を臭わせていたと記されている[34]。『音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にて永井は、「ロキシー・ミュージックを敬愛する氷室の手によるニュー・ウェイヴ」であると指摘し、3曲連続で氷室制作曲が続く事で緩急を付けると共に作品の方向性を決定付けているとも述べている[42]。書籍『PERFECT BOOK BOØWY』では、「リズムが非常に複雑でプログレッシヴ色の強い曲」であると記しており、後半のサビにおいてキーが一つずつ上昇していく箇所が歌詞の内容とリンクして「リスナーに焦りや危機感を植え付ける」ことから「詞と曲の相乗効果が非常に秀逸」であると主張している[36]。
「FANTASTIC STORY」
子安は本曲を「幻想的であり、物悲しさを感じる楽曲」と述べた他、本作には最後を感じさせる曲が多く収録された事から「夏のベルリンの空がとても低く、重く感じたことを記憶している」と述べている[41]。布袋は当時「ヒムロックらしい曲」と述べており、『音楽誌が書かないJポップ批評18 BOØWYと「日本のロック」』では、ギリシャ神話をモチーフとした歌詞など氷室の作風に変化が表れていると記している[34]。その後のツアーでは演奏されず、結局ライブでは演奏されていない曲となった[34]。『音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にて永井は、「“静”と“動”のコントラストをいかした展開が聴きどころ」であると述べている[35]。書籍『PERFECT BOOK BOØWY』では、Aメロパートについて「楽器隊が複雑に絡まり、人ごみ溢れる雑踏のような不穏な気配を醸す」と表現した上で、サビのパートについては「突如一転、得意のメロディアスな8ビートに変わり開放感溢れる展開に雪崩れ込む」と表現し、「緩急の付け方と表現力に脱帽」と記している[36]。
「MEMORY」
本曲のテーマは自身が理想とする「グダグダするんだったら俺がきれいに消えてやるよ」という男の美学であると氷室は述べ、「CLOUDY HEART」とは表裏一体の曲であるとも述べている[43]。子安はアルバムの締め括りが本曲から次曲「季節が君だけを変える」であった事でストーリー性が高く、BOØWYの存在が多くの人の記憶に残った要因であると確信すると断言している[41]。また「詞、メロディー、サウンド、ボーカルが四位一体となった名曲である」と述べている[41]。ベスト・アルバム『THIS BOØWY』(1998年)リリース時にはプロモーション用の曲として選定され[41]、本曲をベースにしたPVが制作された。ライブではキーを下げて演奏された[34]。『音楽誌が書かないJポップ批評43 21世紀のBOØWY伝説』にて町口は、「解散宣言の曲と解釈するのは必然」と述べている[38]。書籍『PERFECT BOOK BOØWY』では、「CLOUDY HEART」と並ぶBOØWY流ラブソングの完成形であると主張、恋愛を題材としながらも感傷的なだけでなく「広くて深い感情を見事に描き出している」と指摘、「歌声の背後で響くアルペジオが感情を揺さぶる」と記している[36]。