SEPECAT ジャギュア
イギリス空軍のジャギュアGR.3
SEPECAT ジャギュア (SEPECAT Jaguar)は、イギリス とフランス が共同開発した訓練機 および超音速 攻撃機 。名称の由来は、日本語 でジャガー と呼ばれる動物だが、この訓練・攻撃機を指す場合はジャギュアと表記される。イギリス英語 でジャギュア[ 注 1] 、アメリカ英語 ではジャグヮー[ 注 2] であり[ 1] 、フランス語 では「ジャグワール」[ 注 3] と発音する。
開発
1965年 、高等練習機 を求めていたイギリス と軽攻撃機 を求めていたフランス の利益が一致し、共同開発が行われることとなった。共同開発にあたって、フランスからはブレゲー (現ダッソー )社、イギリスからはBAC (現BAEシステムズ )社が選ばれ、1966年 5月に国際共同会社SEPECAT社を設立した。SEPECATは戦闘訓練・対地支援機のヨーロッパ 共同開発 (Société Européenne de Production de 'l avion École de Combat et Appui Tactique) のフランス語 頭文字をとったものである。
開発では、まず8機の試作機が製造され、1968年 9月4日 に試作初号機が初飛行し、この段階で英仏双方で各200機を調達することで合意。イギリス空軍 は単座のジャギュア S(ジャギュア GR Mk.1)165機と複座のジャギュア B(ジャギュア T Mk.2)35機、フランス空軍 は単座のジャギュア Aを160機と複座のジャギュア Eを40機を調達することになった。
主翼上面にAAM ランチャーを装備するジャギュア GR.3A
ジャギュアA初号機は1969年 3月29日 に初飛行し、ジャギュアS初号機も1969年10月29日 に初飛行した。1969年11月14日 にはフランス海軍 向けの艦載機 型ジャギュアMが初飛行しているが、開発コストの高騰と発着艦能力に問題があるとして計画はキャンセルされ、シュペルエタンダール に採用を奪われている。
アドーア エンジン を2基搭載してやや下反角のついた主翼を高翼配置としている。主翼の後退角 は、翼舷25 %の位置で40度、中ほどにはドッグトゥース がつけられている。エンジンの排気口は、水平尾翼 の前下方についている。主脚 はダブルタイヤ が採用され、前線の不整地滑走路 からの離着陸も考慮されている。ハードポイント は左右の主翼に各2ヶ所、胴体下に1ヶ所の計5ヶ所だが、イギリス空軍では主翼上面にAAM ランチャー 付きパイロン を装備できるようにしている。ロール軸 の制御はスポイラー の差動(スポイレロン )と水平尾翼の差動(テイルロン)の併用で行う(スポイラーのみでローリングすると反応が遅くなるため)。
同じアドーアエンジン双発ということもあって、本機は機体の寸法・デザインが日本 の三菱 T-2 (1971年初飛行)/F-1 (1975年初飛行)と非常に良く似ており、双方とも攻撃機・練習機として使われている。しかし、ジャギュアは攻撃機から練習機が派生したが、T-2/F-1は練習機から支援戦闘機 (攻撃機)が派生している点が異なる。また、主翼はジャギュアが削り出し一体構造であるのに対し、T-2/F-1はより軽量で強度の高い複合材接合を用いている[ 2] 。
1973年 より、フランス空軍とイギリス空軍に配備が開始された。海外輸出もされたが、皮肉にも開発国のフランスは本機よりもミラージュ5 やミラージュF1 などの純国産機の輸出を推し進めたため、イギリスのみで輸出販売が行われた本機はフランスの純国産機と競合する形になってしまい、インド など4ヶ国で採用されたのみに留まった。
運用
攻撃機 として、湾岸戦争 やコソボ紛争 において実戦参加を行っているほか、イギリス空軍 では高等練習機 としても用いられている。フランス空軍 では核攻撃機としても運用されていたが、ミラージュ2000N に核攻撃任務は引き継がれた。オマーン空軍 では当時唯一の超音速機であったことから防空任務にも使用されていた。
練習機としてもイギリス空軍では2007年に退役、オマーン空軍のジャギュアも2014年8月に退役した。
ジャギュアは練習機としては過剰性能 かつ高価過ぎることの反省から、英仏共により安価で使い勝手の良い練習機として、それぞれBAe ホーク とダッソー/ドルニエ アルファジェット を開発した。
インド空軍
インド空軍 のジャギュア攻撃機は、1980年代 からヒンドスタン航空機 でシャムシャー (ヒンディー語 :जैगुआर、Shamsher) の名でライセンス生産 されており、偵察 任務から海上での支援戦闘機 として運用してきた。1999年 のカルギル戦争 では、レーザー誘導爆弾 による空爆を行うなど、実戦でも積極的な役割を果たした。
2020年代でも配備しているのはインド空軍のみだが[ 3] 、配備から30年以上経過したヒンドスタン航空機によるシャムシャーの近代化改修が計画されていた。HAL シャムシャー・ダーリンIIIと名付けられた改修内容は多岐にわたり、推力不足のアドーア エンジン を、ハネウェル 社のF125IN エンジンに換装し推力強化をはかるほか、全天候マルチモードレーダー を搭載し、操縦席をグラスコックピット 化してオートパイロット とヘッドマウントディスプレイ 、フライ・バイ・ワイヤ を採用[ 4] 。ミッションコンピュータ や飛行計器システム、ソリッドステート・デジタル・ビデオ・レコーディング・システム、ソリッドステートフライトデータレコーダーと追加機能を含む、最先端のアビオニクス に変更する[ 5] 。2012年 にHAL シャムシャー・ダーリンIIIは初飛行に成功し、88機のシャムシャーを改修する予定だった。しかし、2基のF125INだけで1機あたり2,670万ドル、その他の改修でさらに1機あたり2億ルピー(280万ドル)かかるという見積もりから、費用対効果に優れないと判断され2019年に改修を断念し、ライセンス生産中のSu-30MKI を増備することが発表された[ 6] 。
派生型
ジャギュア(単座型)
ジャギュア(
2015年 度のコスフォード航空ショーに参加した機体)
ゲートガードとして保存されている機体
ジャギュアT.2A(機体番号XX829号)
ジャギュア S(GR Mk.1)
イギリス空軍 向け単座攻撃機型。イギリス ではGR Mk.1と呼ぶ。
ジャギュア GR Mk.1A
GR Mk.1の能力向上型。
ジャギュア GR Mk.1B
GR Mk.1AにTIALD の携行能力を与えたタイプ。
ジャギュア T Mk.2
イギリス空軍向け複座練習機 型。
ジャギュア T Mk.2A
T Mk.2の能力向上型。
ジャギュア T Mk.2B
T Mk.2AにTIALDの携行能力を与えたタイプ。
ジャギュア GR Mk.3
GR Mk.1の近代化改修型。
ジャギュア GR Mk.3A
GR Mk.3にAIM-132 ASRAAM AAM の携行能力を与えたタイプ。
ジャギュア T Mk.4
T Mk.2の近代化改修型。
ジャギュア インターナショナル
S型をベースにした輸出型。エンジン を強力なものに換装している。
ジャギュア A
フランス空軍 向け単座攻撃機 型。
ジャギュア B
フランス空軍向け複座操縦転換訓練型。
ジャギュア E
フランス空軍向け複座練習機 型。
ジャギュア M
フランス海軍 向け単座攻撃機型。試作のみ。
ジャギュア IS
インド においてライセンス生産 されたタイプ。エンジンを強化し、一部の機体はアゲブレーダー を搭載したことでシーイーグル 対艦ミサイル を運用できるジャギュア IM となっている。インド空軍 ではシャムシャー (Shamsher) と呼ぶ。
採用国
諸元・性能 (単座型)
出典: Taylor, John W. (1982). Jane's All the World's Aircraft 1982-83 . Jane's Publishing Company Limited. pp. 115-117. ISBN 978-0710607805
諸元
乗員: 1名
全長: 16.83 m (55 ft 2.5 in; ピトー管含む)
全高: 4.89 m (16 ft 0.5 in)
翼幅 : 8.69 m(28 ft 6 in)
翼面積: 24.18 m2 (260.27 sq ft)
空虚重量 : 7,000 kg (15,432 lbs)
最大離陸重量 : 15,700 kg (34,612 lbs)
動力: ロールス・ロイス・チュルボメカ アドーア Mk.102 アフターバーナー 付ターボファン
ドライ推力: 22.75 kN (5,115 lbf ) × 2
アフターバーナー 使用時推力: 32.5 kN (7,305 lbf) × 2
内部燃料搭載量 :4,200 L
性能
最大速度: マッハ 1.6 (917ノット) ※高度36,000 ft
失速 速度: 213 km/h (115ノット) ※着陸速度
戦闘行動半径: 1,408 km (760海里) ※増槽搭載、Hi-Lo-Hi
フェリー飛行時航続距離: 3,524 km (1,902海里)
離陸滑走距離: 1,250 m (4,100 ft; 1,000ポンド爆弾8発搭載時)
着陸滑走距離: 680 m (2,230 ft)
武装
脚注
脚注
出典
関連項目
外部リンク