WASP-121 は、とも座 の方向におよそ860光年 の距離にある10等星 である[ 1] [ 3] [ 2] [ 注 1] 。WASP-121の周囲には、少なくとも1つ太陽系外惑星 が存在することがわかっている[ 2] 。
特徴
大きさの比較
太陽
WASP-121
WASP-121は、スペクトル型 がF6 Vに分類されるF型主系列星 で、質量 、半径 は太陽 の1.4倍程度と見積もられる、太陽より少し大きい恒星である[ 2] 。光球 面の有効温度 は、およそ6,460 K で、太陽よりやや高温である[ 2] 。
WASP-121は、自転 速度が13.5 km/s以上と推定され、この種の恒星の中では高速であり、活動的な恒星といわれる[ 2] 。一方で、WASP-121の光度曲線 からは、自転に伴う周期的な光度変化は、少なくともミリ等級水準では検出されていない[ 2] 。また、恒星の活動性の指標である、彩層 からのカルシウム 輝線 もみられない[ 4] 。
惑星系
WASP-121b の観測結果に基づくシミュレーションを視覚化した、「ウルトラホット・ジュピター 」のみえかた。ウルトラホット・ジュピターは母星の光を反射できないが、大気が非常に高温になるため熱放射 で輝くと考えられる。出典: NASA / JPL -Caltech / Aix-Marseille University [ 5]
2015年、WASP-121の周りを約1.27日 の周期で公転 する惑星 WASP-121b の発見が初めて公表された[ 2] 。2011年から2012年に、WASP-South がWASP-121を観測した結果、WASP-121の手前を通過 する天体 による周期的な減光が確認され、オイラー望遠鏡 やTRAPPIST による追観測で、この天体が惑星であることが明らかになった[ 2] 。
WASP-121bは、質量が木星 の1.2倍ほど、半径は木星 の1.8倍に及ぶホット・ジュピター で、その軌道長半径 が、潮汐力 により惑星が破壊される臨界軌道半径であるロッシュ限界 より若干大きいだけであることから、潮汐破壊寸前の状態にあるものと考えられる[ 2] 。WASP-121bは、ハッブル宇宙望遠鏡 (HST)などによる観測から、成層圏 で赤外線 での水 (H2 O)輝線が放射されていることがわかった[ 6] 。これは系外惑星の成層圏に水を検出した初めての例であり、母星からの放射 はかなりの部分が惑星大気の上層部で保持されて、低空ほど温度が低くなる逆転現象 が生じており、その原因として酸化バナジウム や酸化チタン などの気体 による吸収が寄与しているものと考えられる[ 6] 。一方、近紫外線 でのHSTによる観測からは、鉄 やマグネシウム のイオンが、WASP-121bのロッシュ・ローブ を超えて広がっていることが確認され、金属元素が惑星重力 の束縛外へ流出しているとわかった[ 7] 。このように惑星から流出した物質は、母星を覆い、彩層輝線をみえなくしている可能性もある[ 4] 。
名称
2022年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 の優先観測目標候補となっている太陽系外惑星のうち、20の惑星とその親星を公募により命名する「太陽系外惑星命名キャンペーン2022(NameExoWorlds 2022)」において、WASP-121とWASP-121bは命名対象の惑星系の1つとなった[ 9] [ 10] 。このキャンペーンは、国際天文学連合 (IAU)が「持続可能な発展のための国際基礎科学年 (英語版 ) (IYBSSD2022)」の参加機関の一つであることから企画されたものである[ 11] 。2023年6月、IAUから最終結果が公表され、WASP-121はDilmun 、WASP-121bはTylos と命名された[ 12] 。ディルムン は、バーレーン 群島及びアラビア半島 東部にあった古代文明のシュメール語 名[ 12] 。テュロス (希 : Τύλος )は、バーレーン島 の古代ギリシア語 名である[ 12] 。
ギャラリー
脚注
注釈
^ a b c パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
出典
^ a b 中野太郎 (2019年8月6日). “金属元素が流れ出すラグビーボール型の惑星 ”. AstroArts . 2022年9月18日 閲覧。
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Delrez, L.; et al. (2016), “WASP-121 b: A hot Jupiter close to tidal disruption transiting an active F star”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 458 (4): 4025-4043, Bibcode : 2016MNRAS.458.4025D , doi :10.1093/mnras/stw522
^ a b c d e f g “CD-38 3220 -- Star ”. SIMBAD . CDS . 2022年9月18日 閲覧。
^ a b Salz, M.; et al. (2019-03), “Swift UVOT near-UV transit observations of WASP-121 b”, Astronomy & Astrophysics 623 : A57, Bibcode : 2019A&A...623A..57S , doi :10.1051/0004-6361/201732419
^ “Water Is Destroyed, Then Reborn in Ultrahot Jupiters ”. JPL (2018年8月9日). 2022年9月18日 閲覧。
^ a b Evans, Thomas M.; et al. (2017-08), “An ultrahot gas-giant exoplanet with a stratosphere”, Nature 548 (7665): 58-61, arXiv :1708.01076 , Bibcode : 2017Natur.548...58E , doi :10.1038/nature23266
^ Sing, David K.; et al. (2019-08), “The Hubble Space Telescope PanCET Program: Exospheric Mg II and Fe II in the Near-ultraviolet Transmission Spectrum of WASP-121b Using Jitter Decorrelation”, Astronomical Journal 158 (2): 91, Bibcode : 2019AJ....158...91S , doi :10.3847/1538-3881/ab2986
^ Bourrier, V.; Ehrenreich, D.; Lendl, M. et al. (2020). “Hot Exoplanet Atmospheres Resolved with Transit Spectroscopy (HEARTS). III. Atmospheric structure of the misaligned ultra-hot Jupiter WASP-121b”. Astronomy and Astrophysics 635 : A205. arXiv :2001.06836 . Bibcode : 2020A&A...635A.205B . doi :10.1051/0004-6361/201936640 .
^ “NameExoWorlds 2022 ”. NameExoWorlds . IAU (2022年8月). 2023年6月15日 閲覧。
^ “List of ExoWorlds 2022 ”. NameExoWorlds . IAU (2022年8月). 2023年6月15日 閲覧。
^ “太陽系外惑星命名キャンペーン2022 ”. 国立天文台 (2022年9月5日). 2023年6月15日 閲覧。
^ a b c “2022 Approved Names ”. NameExoWorlds . IAU (2023年6月). 2023年6月15日 閲覧。
^ a b “Hubble Detects Exoplanet with Glowing Water Atmosphere ”. JPL (2017年8月2日). 2022年9月18日 閲覧。
関連項目
外部リンク
座標 : 07h 10m 24.0604565856s , −39° 05′ 50.571250476″