ドロミーティ (イタリア語 : Dolomiti )は、イタリア 北東部にある山地で、東アルプス山脈 の一部。ドロミテ などとも表記される(#名称 節参照)。おおむね北はリエンツァ川 、西はイザルコ川 とアディジェ川 、南はブレンタ川 、東はピアーヴェ川 に囲まれた一帯で、ボルツァーノ自治県 (南チロル )、トレント自治県 、ベッルーノ県 にまたがる。
上記の範囲以外にも、共通の地質的特徴を持つ山地が「ドロミーティ」と呼ばれている。たとえば、アディジェ川以西のドロミーティ・ディ・ブレンタ (イタリア語版 ) や、ピアーヴェ川以東(ポルデノーネ県 、ウーディネ県 にまたがるフリウーリ 地方北西部)に所在するドロミーティ・フリウラーネ (イタリア語版 ) などである。
狭義のドロミーティおよび、ドロミーティ・ディ・ブレンタ、ドロミーティ・フリウラーネに含まれるいくつかの山塊は、ユネスコ の世界遺産 (自然遺産 )に「ドロミーティ」の名で登録されている。また、アダメッロ・ブレンタ国立公園 (英語版 ) を含むドロミーティ・ディ・ブレンタからガルダ湖 までの一帯は2015年にユネスコ の生物圏保護区 に指定された[ 1] 。
名称
ドロミーティの名は、18世紀フランスの地質学者 デオダ・ドゥ・ドロミュー (Déodat de Dolomieu )に由来する。デオダ・ドゥ・ドロミューは、この山々で非常に豊富な鉱物 である苦灰石 (ドロマイト dolomite )を発見した人物である(苦灰石を主成分とする苦灰岩 (マグネシウム質石灰岩 )もドロマイトと呼ばれる)。イタリア語 では、モンティ・パッリディ (Monti Pallidi 、淡色の山々)とも呼ばれる。
イタリア語以外の言語では以下のように呼ばれる。
日本語 文献では、ドロミティ 、ドロミテ 、ドロミチ などとも表記され、-アルプス 、-山脈 、-山塊 が末尾につけられる事も多い。
歴史
今から数千年前には、狩猟や採集を行っていた人々が山岳地帯にまで進出し、いくつかの山頂には到達していたようである。1790年代 、クラーゲンフルト 出身のイエズス会 の司祭、フランツ・フォン・ヴルフェンがリュンコフェル(Langkofel)とデューレンシュタイン (英語版 ) (Dürrenstein)に登頂したという記録が残されている。1857年 、イギリス の博物学者、ジョン・ボール がモンテ・ペルモの初登頂を行った。その後、オーストリア の登山家、パウル・グローマン (英語版 ) が、アンテラーオ(Antelao)やマルモラーダ(Marmolata)、トファーナ(Tofana)、モンテ・クリスタッロ(Monte Critallo)、ボエ(Boè)といった山に登頂。1860年代 頃には、アーゴルド 出身の登山家、シモーネ・デ・シルヴェストロがチヴェッタ(Civetta)を意識的な初登頂を果たした。また、ミヒャエル・インナーコフラー (英語版 ) はトレ・チーメ・ディ・ラヴァレード に最初に登頂を果たしたはメンバーの一人であった。さらにその後、アンジェロ・ディボーナ (英語版 ) やジョバンニ・ピアッツ (英語版 ) といった地元の登山家たちが数々の初登頂で名を馳せた[ 2] 。
第一次世界大戦中、イタリア軍とオーストリア帝国軍がこのドローミティで対峙し、両軍によって地雷がこの地の広範囲にわたって埋設された。現在、チンクェトッリ とモンテ・ピアナ(Monte Piana)、モンテ・ラガツオイ(Monte Lagazuoi)に野外戦争博物館が開設されている。また、第一次大戦中に岩壁に築かれた保護登山路、ヴィア・フェラータ (英語版 ) (伊 :Via Ferrata - 鉄の道)を登るため、多くのクライマーが訪れている。
20世紀 に入り、ボルツァーノ 出身の民俗学者 にして民話研究家 のカール・フェリックス・ヴォルフ (英語版 ) と、彼の友人のフーゴ・フォン・ロッシ (ラディン語版 ) による『ドロミテのサガ』("Dolomiten-Sagen")が世にでたことで、バディーア谷やファッサ谷を中心としたドロミーティは、ファネス王国 (英語版 ) の叙事詩の舞台としても知られるようになった。
ドロミーティには、数多くの長距離遊歩道が存在する。これらの道はアルテ・ヴィエ(伊:Alte Vie)、または「ドロミテン・ホーエンヴェーグ」(独 :Dolomiten Höhenwege - 高地路)とよばれ、1から10までの番号が割り振られている。全ての道を踏破するのには一週間前後かかり、道中各所にはいくつものリフジ(伊:rifugi - 山小屋)が設けられている。1番目の道であるアルタ・ヴィア1 (英語版 ) は、アルテヴィエのなかで最も有名なハイキングルートである。アルタ・バディア (英語版 ) では、地滑りの活動と気候変動との関連性を実証するために、放射性炭素年代測定 が行われている[ 4] 。
地理
最も標高が高い山は標高3343mのマルモラーダ (Marmolada)である。特徴的な形の急峻な岩山が多く、比高100mオーダーの岩壁は格好のロッククライミングの場である。標高1800m(北側斜面)または2200m(日射のある斜面)以下は主に針葉樹林 (ドイツトウヒ 、ヨーロッパモミ 、ヨーロッパアカマツ 、ヨーロッパハイマツ (英語版 ) 、ムゴマツ )となっている。アルペ・ディ・シウージ(Alpe di Siusi)やアンペッツォ(Ampezzo)の高地では放牧が営まれる。付近にはオオヤマネコ 、ハイイロイワシャコ 、クマゲラ 、スズメフクロウ 、シロツメザリガニ (英語版 ) 、ミヤマイモリ (英語版 ) 、クスシヘビ などが生息し、ヒグマ の再導入も行われる[ 1] 。また、山中に中生代 の炭酸塩 台地 (「化石 の環礁 」)が発達しており、P-T境界 後の三畳紀 に出現した海洋生物 の化石が多く見つかり、三畳紀の層序 における重要な地点もいくつかある[ 5] 。
他の石灰岩質の地域とは異なりドロミーティには石灰岩 の侵食 現象による洞窟 などが存在しない。
2022年 7月上旬にはマルモラーダ山で氷河の一部が崩壊し発生した雪崩で、9人が亡くなった[ 6] 。熱波による気温上昇によるとみられる[ 6] 。
主な山
マルモラーダからの 360°の景観
山群
セッラ山群 (Gruppo del Sella)
マルモラーダ =コスタベッラ(Marmolada-Costabella)
トファーネ (Tofane)
サッソルンゴ (Sassolungo)
オドレ (Odle)
プエツ山群 (Gruppo di Puez)
ファーネス (Fanes)
シリアール (Sciliar)
Gruppo Sass dla Crusc - Conturines
Gruppo del Piz da Peres
ソラピス(Sorapiss)
アンテラーオ(Antelao)
ラゴライ(Lagorai)
ボスコネーロ(Bosconero)
ヴェッテ・フェルトリーネ(Vette Feltrine)
スキアーラ(Schiara)
ドロミーティ・ディ・ブライエス(Dolomiti di Braies)
ドロミーティ・ディ・セスト(Dolomiti di Sesto
ガルデナッチャ山群(Gruppo della Gardenaccia)
純粋なドロミーティの地域外:
ドロミーティ・フリウラーネ(Dolomiti friulane):南カルニケ・アルプス
ドロミーティ・ディ・ブレンタ(Dolomiti di Brenta)
Lienzer Dolomiten
低エンガディーナのドロミーティ(Dolomiti della Bassa Engadina)
峰
名称
高さ(m)
名称
高さ(m)
Marmolada
3343
Pala di San Martino
2996
Antelao
3263
Catinaccio(Rosengartenspitze)
2981
Tofana di Mezzo
3241
Marmarole
2961
Sorapiss
3229
Cima di Fradusta
2941
Monte Civetta
3220
Fermedaturm
2867
Vernel
3145
Cima d'Asta
2848
Monte Cristallo
3199
Cima Canali
2846
Cima di Vezzana
3191
Croda Grande
2839
Cimon della Pala
3186
Torri del Vajolet(maggiore)
2821
Langkofel
3178
Sass Maor
2816
Monte Pelmo
3169
Cima di Ball
2783
Cima dei Tre Scarperi(Dreischusterspitze)
3162
Cima della Madonna(Sass Maor)
2751
Piz Boe(Gruppo Sella)
3152
Cima della Rosetta
2741
Croda Rossa d'Ampezzo(Hohe Gaisl)
3148
Croda da Lago
2715
Piz Popena
3143
Central Grasleitenspitze
2705
Grohmannspitze(Langkofel)
3111
Schiara
2562
Zwolferkofel(Croda dei Toni)
3094
Sasso di Mur
2554
Elferkofel(Cima Undici)
3092
Cima delle Dodici
2338
Sass Rigais(Geislerspitzen)
3027
Monte Pavione
2336
Tre Cime di Lavaredo
3003
Cima di Posta
2235
Catinaccio d'Antermoia(Kesselkogel)
3001
Monte Pasubio
2232
Funffingerspitze
2997
主な峠
ランコフェル峠
ガルデナ峠
名称
形態
標高(m)
Passo d' Ombretta(Campitello - Caprile)
小道
2738
Langkofeljoch(Val Gardena - Campitello)
小道
2683
Tschagerjoch(Karersee - Valle Vajolet)
小道
2644
Grasleiten Pass(Valle Vajolet - Valle Grasleiten)
小道
2597
Passo di Pravitale(Altopiano di Rosetta - Valle Pravitale)
小道
2580
Passo delle Comelle(Altopiano di Rosetta - Cencenighe)
小道
2579
Passo Rosetta(San Martino di Castrozza - Altopiano di Rosetta)
小道
2573
Passo Vajolet(Tiers - Valle Vajolet)
小道
2549
Passo di Canali(Primiero - Agordo)
小道
2497
Passo dell'Alpe di Tierser(Campitello - Tiers)
小道
2455
Passo di Ball(San Martino di Castrozza - Valle Pravitale)
小道
2450
Forcella di Giralba(Sesto - Auronzo)
小道
2436
Col dei Bos(Valle del Falzarego - Valle Travernanzes)
小道
2313
Forcella Grande(San Vito - Auronzo)
小道
2262
Passo Pordoi(Caprile - Campitello)
道路
2250
Passo Sella(Val Gardena - Campitello)
道路
2218
Passo Tre Sassi(Cortina - San Cassiano)
小道
2199
Mahlknechtjoch(Alta Val Duron - Alpe di Siusi)
小道
2168
Passo Gardena(Val Gardena - Colfosco)
道路
2137
Passo Falzarego (Caprile - Cortina)
道路
2105
Passo Fedaia(Campitello - Caprile)
道路
2046
Passo Valles(Paneveggio - Falcade)
道路
2032
Passo Rolle(Predazzo - San Martino di Castrozza e Primiero)
道路
1984
Forcella Forada(Caprile - San Vito)
道路
1975
Passo di San Pellegrino(Moena - Cencenighe)
道路
1910
Forcella d'Alleghe(Alleghe - Valle di Zoldo)
小道
1820
Passo Tre Croci(Cortina - Auronzo)
道路
1808
Passo di Costalunga/Karerpaß(Nova Levante - Vigo di Fassa)
道路
1753
Passo di Monte Croce(San Candido/InnichenとSesto/Sexten - Valle del Piave と Belluno )
道路
1638
Passo di Ampezzo(Dobbiaco/Toblach - Cortina と Belluno)
道路
1544
Passo Cereda(Primiero - Agordo)
道路
1372
Passo di Dobbiaco /Toblach(Brunico /Bruneck - Lienz )
道路と鉄道
1209
Passo Duran(La Valle Agordina - Zoldo)
道路
1601
主な谷
ヴァッレ・デル・ボイテ(Valle del Boite)
コンカ・アンペッツァーナ(Conca Ampezzana)
ヴァル・ガルデーナ(Val Gardena)
ヴァル・バディーア(Val Badia)
ヴァル・ディ・ファッサ(Val di Fassa)
ヴァッレ・デル・プリミエーロ(Valle del Primiero)
ヴァルゾルダーナ(Valzoldana)
ヴァル・ディ・フィエンメ (Val di Fiemme)
ヴァル・デーガ(Val d'Ega)
ヴァッレ・ディ・リヴィナッロンゴ(Valle di Livinallongo)または、ラディン語でフォドム(Fodom)
ヴァッレ・デル・コルデヴォーレ(Valle del Cordevole)
ヴァル・フィオレンティーナ(Val Fiorentina)
ヴァルベッルーナ(Valbelluna)
ヴァッラータ・アゴルディーナ(Vallata Agordina)
主な湖
カレッツァ湖
世界遺産
ドロミーティ最高峰マルモラーダ
英名
The Dolomites 仏名
Les Dolomites 面積
135,910.9370 ha (緩衝地域98,511.9340 ha) 登録区分
自然遺産 登録基準
(7),(8) 登録年
2009年 公式サイト
世界遺産センター (英語) 地図
使用方法 ・表示
世界遺産としての「ドロミーティ」 (de:Welterbe Dolomiten ) は、以下の地域から構成される(番号は右表内の地図に対応する)。
Pelmo-Croda da Lago
Marmolada
Pale di San Martino San Lucano – Dolomiti Bellunesi – Vette Feltrine
Dolomiti Friulane e d`Oltre Piave
Dolomiti Settentrionali Cadorine, Sett Sass
Puez-Odle / Puez-Geisler / Pöz-Odles
Sciliar-Catinaccio
Rio delle Foglie
Dolomiti di Brenta
世界遺産登録基準
この世界遺産は世界遺産登録基準 のうち、以下の条件を満たし、登録された(以下の基準は世界遺産センター 公表の登録基準 からの翻訳、引用である)。
(7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
(8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
地域社会
イタリア北東部のフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州 のフリウーリ 地方で使われるフリウリ語 やスイス の第四の公用語ロマンシュ語 とともにレト・ロマンス語群 のひとつであるラディン語 (ドロミテ語、ドロミーティ語)が使われている地域でもある。
この地域の経済は主として冬と夏の観光で成り立っている。
ドロミーティに因む名称
登山靴、スキーブーツのブランド「ドロミテ」名の由来ともなっている。
英国の自動車ブランドであるトライアンフ が、1930年代(初代〈英語版〉 )と1970年代(2代目 )に、英語読みの「Dolomite」(ドロマイト)を車名に用いている。
関連作品
2022年に公開された映画「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 (原題: Jurassic World: Dominion)」のストーリーにおける重要な要所としてドロミーティ山脈が設定されている。
劇中では前作で島から本土に持ち込まれ、世界中に散らばった恐竜 を国連 の指揮下のもとで捕獲し、バイオエンジニアリング企業「バイオシン社」がドロミーティ山脈の麓に所有する保護区 「サンクチュアリ」に移送するという保護活動が行われている。
出典
^ a b “Ledro Alps and Judicaria Biosphere Reserve, Italy ” (英語). UNESCO (2022年4月). 2023年3月19日 閲覧。
^ Die Besteigung der Berge - Die Dolomitgipfel werden erobert (German: The ascent of the mountains - the dolomite peaks are conquered)
^ Borgatti, Lisa; Soldati, Mauro (2010-08-01). “Landslides as a geomorphological proxy for climate change: A record from the Dolomites (northern Italy)”. Geomorphology . Landslide geomorphology in a changing environment 120 (1–2): 56–64. Bibcode : 2010Geomo.120...56B . doi :10.1016/j.geomorph.2009.09.015 .
^ “The Dolomites ” (英語). UNESCO World Heritage Centre . 2023年5月6日 閲覧。
^ a b “イタリアの氷河崩壊、死者9人に 2人の遺体発見、行方不明は3人|秋田魁新報電子版 ”. 秋田魁新報電子版 . 2022年8月3日 閲覧。
参考文献
関連項目
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
ドロミーティ に関連するカテゴリがあります。
主にイタリア語