サイクル安打(サイクルあんだ)とは、野球・ソフトボールの試合における記録で、1試合で1人の打者が単打、二塁打、三塁打、本塁打のそれぞれを1本以上打った場合に成立する記録である[1]。
一巡安打(いちじゅんあんだ)、サイクルヒット(cycle hits)とも呼ぶ。サイクルヒットは和製英語であり、英語では hit for the cycle という。
概要
もともとは、「単打、二塁打、三塁打、本塁打の順で安打を打つこと」がサイクル安打と呼ばれていた。現在ではその順で記録したものは「ナチュラル・サイクルヒット」、逆に本塁打から順に記録したものは「リバースサイクルヒット」と呼ばれ、順番無関係で成立した単なるサイクル安打とは区別されている[2]。
日本プロ野球 (NPB) では、1948年10月2日に藤村富美男が最初に達成したが、これは後日認定されたものである。当時の日本には「サイクル安打」の概念がなかったためで、17年後の1965年7月16日に阪急ブレーブスのダリル・スペンサーがサイクル安打を達成した際、スペンサーが自ら記者に「なぜ自分に質問をしてこないのか。これはサイクル安打といって、とんでもない記録なんだ」と言ったのがきっかけで遡って記録が調べられ、藤村が日本での最初の達成者であることが判明した。また、藤村は1950年に2度目のサイクル安打を記録しており、複数回のサイクル安打を記録した最初の選手にもなった。その後、松永浩美、ロバート・ローズ、福留孝介も記録した。
その後、サイクル安打達成者には連盟表彰が行われるようになり、通算150本塁打、100勝などの節目の記録と同様に記録達成者として公式に名前が残る。
この記録を狙う上で最も難しいとされるのが三塁打であり、三塁打だけを打てず記録を達成できなかった例は多々ある。毒島章一は、三塁打よりさらに難易度が高いランニング本塁打を含んだサイクル安打を達成している[3]。
また、事実上サイクル安打が達成できる状況にありながら、次の塁に進んだことで達成を逃した例もあり、中島治康は、まだ誰も達成者がいなかった1940年5月24日の巨人対セネタース戦で本塁打・二塁打・三塁打を記録し、単打が出ればサイクル安打初達成者になるところだったが、次の打席で右中間を破った打球を全力疾走で二塁打にし、達成を逃した[4]。松井秀喜も2001年5月23日の巨人対ヤクルト戦で本塁打・二塁打・三塁打を記録し、残りは単打のみという状況だったが、第5打席で安打を放つも一塁で止まらず二塁まで進んで二塁打とした[5]。そのため両者とも単打を残してサイクル安打達成とはならなかった。
日本では、ポストシーズン(クライマックスシリーズ、プレーオフ、日本シリーズ)で達成した選手はおらず、公式戦以外では、古田敦也が1992年のオールスターゲーム第2戦、近本光司が2019年のオールスターゲーム第2戦でサイクル安打を達成している。また岸川勝也は1989年秋のセパ東西対抗でサイクル安打を記録した。また、公式戦で1986年に記録している金村義明は1982年のジュニアオールスターゲームでも記録している。
メジャーリーグ (MLB) において日本人選手がサイクル安打を達成したのは2019年6月13日の大谷翔平のみである[6]。
なお、1試合で4種類の本塁打(ソロ、2ラン、3ラン、満塁)をすべて打つことを「サイクル本塁打」(サイクルホームラン)と呼ぶが、NPB・MLBとも2020年までにこの記録を達成した者は1人もいない[7]。
歴代達成者
日本プロ野球
日本プロ野球では、71人が延べ76回達成している。日本シリーズ、プレーオフ、クライマックスシリーズで達成した選手はいない。現存球団では東北楽天ゴールデンイーグルスで達成した選手はいない。
名前の太字はナチュラル・サイクル安打。
球団別
いずれも前身球団を含む。
オールスターゲーム
達成日 |
選手 |
所属 |
対戦相手 |
球場 |
備考
|
1992年7月19日 |
ふるた/古田敦也(ヤクルト) |
全セ |
全パ |
千葉マリンスタジアム |
第2戦
|
2019年7月13日 |
ちかもと/近本光司(阪神)[10] |
全セ |
全パ |
阪神甲子園球場 |
第2戦 初回先頭打者本塁打から始まるサイクル安打。レギュラーシーズンを含めても令和最初かつ新人初のサイクル安打。
|
メジャーリーグ
メジャーリーグでは298人がのべ336回達成している。
参考:[11]
名前の太字はナチュラル・サイクル安打。
球団別
(現存する球団のみ集計、前身球団を含む)
参考:[11]
韓国プロ野球
韓国プロ野球では28人が延べ30回達成している。
名前の太字はナチュラル・サイクル安打。
球団別
台湾プロ野球
台湾ではCPBLで10人、TMLで2人が延べ12回達成している。
名前の太字はナチュラル・サイクル安打。
中華職業棒球大聯盟(CPBL)
球団別
順位 |
球団 |
回数
|
1 |
俊国ベアーズ-興農ベアーズ-興農ブルズ-義大-富邦 |
3
|
2 |
統一-統一セブンイレブン-統一 |
1
|
兄弟-中信兄弟
|
第一金剛-La New-Lamigo-楽天
|
現存しない球団・傍系の球団
|
|
三商 |
2
|
1/ |
味全 |
1
|
和信-中信
|
0/ |
時報 |
0
|
那魯湾太陽-誠泰太陽-誠泰-米迪亜
|
台湾職業棒球大聯盟(TML)
高校野球全国大会
選抜高等学校野球大会
選抜高等学校野球大会では1人が達成している。
全国高等学校野球選手権大会
全国高等学校野球選手権大会では6人が達成している。
主な記録
日本プロ野球
- 最多記録者 - ロバート・ローズ(横浜)3回(1995年5月2日中日戦、1997年4月29日ヤクルト戦、1999年6月30日広島戦)
- 最速サイクル安打 - 稲葉篤紀(ヤクルト)(2003年7月1日横浜戦、5回の攻撃で達成)
- 同じ日に複数人が達成 - 1回
- 2003年7月1日 - 稲葉篤紀、村松有人(ダイエー)(近鉄戦)
- 最年長記録者 - 福留孝介(阪神)(2016年7月30日中日戦、39歳3ヶ月で達成)
メジャーリーグ
韓国プロ野球
- 梁埈赫が史上初めて2回達成(1996年8月23日、2003年4月15日)。エリック・テームズは2015年4月9日、8月11日と史上初めて1シーズンで2回達成。2023年9月15日、姜勝淏(斗山ベアーズ)が史上28人目、30回目の達成。
脚注
参考文献
- 講談社刊 宇佐美徹也著「日本プロ野球記録大鑑」519 - 521ページ 1992年のNPBでの達成者まで掲載
外部リンク