コムギ (小麦)はイネ科 コムギ属に属する一年草 の植物 。一般的にはパンコムギ (学名 : Triticum aestivum )を指すが、広義にはクラブコムギ (学名: Triticum compactum )やデュラムコムギ (学名: Triticum durum )などコムギ属 (学名: Triticum )の植物全般を指す。世界三大穀物 のひとつで、小麦粉 にされパン ・麺類 ・菓子 などの主な材料となる。
他の三大穀物と同じく「基礎食料」であり、各国で生産された小麦は、まず国内で消費 され、剰余が輸出 される。主要な輸出国はロシア 、アメリカ 、カナダ 、オーストラリア 、ウクライナ 、フランス である。
人類は紀元前1万5千年~紀元前3千年ころに栽培しはじめ、現在世界でも特に生産量の多い穀物 のひとつであり、世界の年間生産量は約7.3億トンである。これはトウモロコシ の約10.4億トンには及ばないが、米 の約7.4億トンにほぼ近い(2014年)。
野生の小麦
小麦の栽培。コムギ畑(イスラエル )
コムギの穂
収穫期が近づいたコムギ
グライフスヴァルト 大学にある植物学博物館内のコムギの実の断面模型
生態
コムギは播種 時期によって秋播き小麦と春播き小麦の2つの品種群に分かれる。秋播き小麦は発芽するのにある程度の低温期間が継続する春化 を必要とするため、秋に種をまいて越年させ、春に発芽し夏に収穫するのが基本形である。低温が必要なため、やや寒冷な地域では秋播き小麦が主に栽培される。一方春播き小麦は春に播いて、夏の終わりに収穫するのが一般的である。春播き小麦は、寒さが激しく種が冬を越せない地方や、逆に冬に低温にならず春化のできない温暖な地域、さらに本来の収穫期に雨季 を迎え収穫が困難になるような地域で栽培される。麦が熟して収穫を迎えるころには、広い畑一面が黄金色になる草紅葉 が見られる[2] 。
コムギの実は硬い外皮 に覆われ、その中に可食部である胚乳 と、胚芽 が存在する。この3部分の体積の割合は外皮が13.5%、胚乳が84%、胚芽が2.5%である[3] 。主に食用とするのは胚乳部分であり、製粉 して小麦粉 とするのはこの部分である。果皮(「ふすま」および「ブラン(bran)」と呼ばれる[4] )や胚芽部分も食用とすることはできるが、食味に劣るうえ小麦粉に混入すると品質が劣化しやすくなるため、一般的な小麦粉に使用することはない。しかし、ふすま部分には独特の風味と食物繊維 など有用成分があるため、販売されることもあるほか[5] 、これを取り除かずそのまま粉にした全粒粉 も存在する。
コムギのゲノム 解読は、2018年に完了している。64か国の610機関で構成する「国際コムギゲノム解読コンソーシアム」には、日本からは農研機構 や京都大学 などが参加した[6] 。
分類
クロンキスト体系によるコムギ属の分類
生物的分類
コムギ属 Triticum は、1小穂の稔実粒数、染色体 数、ゲノム 構成によって以下のように分けられる。
1粒系(稔実粒数1、2n =14、ゲノムAA )
T. aegilopoides
T. thaoudar
T. monococcum (1粒コムギ )
2粒系(稔実粒数2、2n =28、ゲノムAABB )
普通系(稔実粒数3~5、2n =42、ゲノムAABBDD )
チモフェービ系(稔実粒数2、2n =28、ゲノムAAGG )
種類
小麦は栽培時期等によって以下のように区別される。
播種時期 - 春播き小麦、秋播き小麦:コムギは秋播きが本来の作型であるが、低温要求性が小さい品種が作られ、それらが春播き小麦として利用されている。
粒の色 - 赤小麦、白小麦
粒の硬さ - 硬質小麦(強力粉、パン、麺類の材料)、中間質小麦(中力粉の材料)、軟質小麦(薄力粉、菓子類等の材料)
歴史
世界
ユーラシア大陸 中部のコーカサス地方 からメソポタミア 地方にかけてが原産地と考えられている。野生1粒系コムギの栽培は紀元前8400年頃に始まった。その後1粒系コムギはクサビコムギ Aegilops speltoides と交雑し2粒コムギになり、さらに紀元前5500年頃に2粒系コムギは野生種のタルホコムギ Ae. squarrosa と交雑し、普通コムギ T. aestivum が生まれたといわれる。
コムギの栽培はメソポタミア地方で始まり、紀元前3000年 頃にはヨーロッパ 全域やアフリカ (地中海 沿岸、地中海世界 )に伝えられた。テル・アブ・フレイラ などから採掘された古代の野生種ムギ はもともと成熟すると麦穂が風などにより容易に飛び散る性質を持っており、当初のコムギも収穫には非常に手間のかかる作物であったと考えられている。このため、その貴重さと保蔵のしやすさから一種の交換の媒体、通貨 として取り扱われていたのではないかと推測されている。シリア 地方からヨーロッパなどに栽培の範囲が広がるにつれて品種淘汰がなされ、この種子の飛び散りやすさの特性が失われ、主食 穀物としての座を獲得することになった。栽培植物 化の時期はオオムギの方がやや早く、当初はオオムギの方が重要な作物であった。これは、オオムギの収量の多さや収穫時期の早さ、粒の大きさなどによる。また、この時期はコムギもオオムギも粥 として煮て食べるものであったため、調理方法の差が重要となることはなかった。しかし、製粉 技術が進歩し石臼 が登場すると、粉食により美味さが増し、グルテン を持ち様々な料理へと加工することが容易なコムギがオオムギに代わって最重要の作物となっていった。製粉のための水車 を「人類初の機械 」の発明とする説もある。
聖書 の冒頭の書である『創世記 』(30章14節)にすでに小麦が登場する。その他の書にも頻繁に「麦」や「小麦」が登場し、重要な作物であったことがわかる。
中国 への小麦の伝来は四千年前頃(紀元前2000年頃 )と考えられていて、粉食用として広く栽培される様に成ったのは三千年前頃(紀元前1000年頃 )である。これは小麦が冬作物で、粟 は稲 の端境期に収穫されたためで、七千年前頃から栽培が行われていたとされる大麦 とは対照的である[10] 。
中世 にはヨーロッパでは既にコムギが最も重要な作物となっていたが、特に農民や下層の都市住民にはコムギだけで作られたパンは贅沢品であり、オオムギやエンバク 、ライムギ といった安価な穀物が食生活の中心となっていた[11] 。一方で栽培されるコムギにおいても、パンコムギ はエンマーコムギやスペルトコムギよりも優勢であり、より高く評価されていた。パンコムギには易脱穀 性があり、難脱穀性のエンマーコムギやスペルトコムギに比べ脱穀の手間が少なかったためである[12] 。
大航海時代 に入ると、新大陸 に移住したヨーロッパ人植民者たちが故郷からコムギを持ち込んで栽培し、新大陸においても基幹食料となっていった。アメリカ合衆国 やカナダ 、オーストラリア といった現在のコムギ主要生産国にコムギが持ち込まれたのもこの時期のことである。また、18世紀 頃からヨーロッパでは徐々に市民の生活が向上し、また農法の改善や生産地の拡大によってコムギ生産が拡大するとともにコムギが食生活の中心となっていき、量の面でもライムギにかわってコムギが中心となっていった[13] 。
20世紀 後半、ノーマン・ボーローグ らによる小麦農林10号 を親としたコムギの短稈種の研究が進められ、肥料 を多量に使用しても丈が高くならず、倒伏の危険なしに大量の収穫が見込める品種が次々と開発された。この研究から緑の革命 がおこり、これによって多収量の上安定した収穫が望める新品種が発展途上国を中心に普及し、メキシコ など多くの発展途上国でコムギは大幅な増収となり、生産性も大幅に改善された。その一方、旱魃 など災害による地域的な不作もなくなってはいない。
日本
中国大陸経由で直接日本に伝来されたと考えられている[15] 日本でも約2000年前の遺跡から小麦が出土しており、伝わったのはそれから遠くない弥生時代 であると考えられている。奈良 ・平安 期には五穀 の1つとして重視された(『和名類聚抄 』には「古牟岐(コムギ)・末牟岐(マムギ=「真麦」)」の名で伝わる)。一方で収穫前の大麦・小麦の青草を貴族や有力豪族が農民から買い上げて馬の飼料にすることが行われ、当時の政府がこれを禁止する太政官符 が度々発令(751年、808年、819年、839年)されており、稲や粟と比較して食用作物としての認識が十分に広まっていなかったとする見方もある。ただ、これには当時の日本に製粉用の石臼 がほとんど普及していない、という事情があった。柔らかい胚乳が硬い表皮で覆われた構造の麦粒を食用にするには、全体をひき潰してから小麦粉とふすま に分離する必要がある。回転式の石臼を持たない庶民は、搗き臼を使っての非効率な製粉作業に甘んじるしかなかった。その手間を嫌い、手早く利益を得る方法として小麦を飼料用に販売したとも考えられる。それ以降もコムギは全国で栽培され続けたが、製粉技術が未発達だったために使用法が限定されていた。それでも鎌倉時代 にはいって二毛作 が始まると、稲の裏作 作物としてコムギが採用され、室町時代 に入ると米に比べてムギの税率が軽かったために裏作でのコムギの栽培量が急速に増加した。
日本では製粉技術の発達が遅れたため、小麦その他「粉」を使用した食品は長らく贅沢品とされた。庶民がうどん 、饅頭 、ほうとう 、すいとん などの粉食品を気軽に口にできるようになったのは、石臼が普及した江戸時代 以降である。稲の裏作として麦の生産が盛んに行われるようになり、粒のまま食べるオオムギと粉にして食べるコムギがともに食用として栽培された。都市 では小麦粉を使用したうどんや天ぷら といった料理や饅頭などの和菓子 の消費が大きくなる一方、自家消費の割合の大きい農村 では製粉という手間のかかるコムギは日常ではなかなか口にできるものではなかった。このため、コムギなどの粉食はハレ の日の料理として扱われることが多かった。
明治時代 に入り、欧米からパンなど様々なコムギ料理が伝わってくるとコムギの消費も増大した。明治時代初期には36万ヘクタールだった栽培面積は、大正時代 には50万ヘクタール、最も栽培面積の大きくなった第二次世界大戦 中には70万から80万ヘクタールにのぼるようになった。第二次世界大戦後には学校給食 がはじまり、パン主体の給食と食の欧米化、多様化はコムギの消費をさらに拡大させた。一方で、アメリカなどから安いコムギが大量に入ってくるようになったことや二毛作 自体の衰退、そして1963年の三八豪雪 と夏の多雨により小麦生産が大打撃を受けたことにより、栽培面積は急速に減少して、1963年には栽培面積60万ヘクタール、自給率20%前後だったものが、1973年には栽培面積は7.5万ヘクタールにまで減少し、自給率はわずか4%となった[18] 。その後、減反政策 によってコムギの生産が奨励され、生産はやや復調傾向にある。2005年には栽培面積は21万ヘクタール、自給率は14%となっている[18] 。
用途
様々なコムギ食品
収穫された種子は基本的には製粉 して小麦粉 として使われる[19] 。初期のコムギは粥のようにして食べられていたが、穀粒が硬く軟らかくするのに長時間加熱しなければならなかったこと、小麦粉の生地には特有の粘りと弾力性があり食感が好ましかったこと、表皮のふすま(麩・麬=コメでいう糠 )が硬いため取り除こうとすると内側の胚乳部が砕けてしまうことから、いったん製粉 して小麦粉 にしてから加工する粉食 が基本になった[19] 。
小麦粉から製造される食品は多岐にわたる。パン の種類は非常に多く、食パン やフランスパン など西洋起源の主食用発酵パンだけでなく、中東から北アフリカにかけてのピタ のように非西洋起源のパンも多く、またチャパティ のように非発酵のパンも多く食される。あんパン やデニッシュ のような菓子パン 、カレーパン のような惣菜パン もあり、また中国のマントウ や蒸しパン のように焼かずに蒸して作るものまで多様な種類が存在する。パスタ 、中華麺 、うどん 等に代表される麺類 も多様であり、世界で広く食される。クッキー 、クラッカー 、ケーキ 、ドーナツ 、饅頭 、パイ 、カステラ のように、菓子 にも広く使用される。北アフリカでは、小麦粉を練ってクスクス を作り、主食としている。
調理の際に小麦粉を使用するものも、天ぷら やフライ のような揚げ物 類の衣 、お好み焼き やたこ焼き などの生地、スープのとろみをつける際に使用するなど、多くの使用法が存在する。
粉にしない食べ方としては、挽き割りにしたブルグル がある。
また、小麦粉からとれるグルテン からは麩 が作られる。
品質が劣るものや製粉の際に出るふすまは家畜 の飼料となる。ふすまは、セルロース など不溶性 食物繊維 を豊富に含むことが着目され、パン等にも混合され用いられるようになった。また、コムギの胚芽には油 が含まれ、食用の小麦胚芽油をとることができる。
なおアメリカ合衆国では、生産量の50%が輸出、36%が食料、10%が飼料、4%が種付の用途となっている[27] 。
生産・貿易
生産
世界の小麦生産図
アイダホ州 のコムギ畑
収穫され積まれるコムギ
袋に入れられるコムギの実
コムギは、温帯 から亜寒帯 にかけて栽培されている。比較的乾燥に強く、生産限界は年間降水量400 mmである。灌漑 設備が整っている場合は、さらに乾燥した地域でも栽培できる。
地域別ではアジア州が4割強、ヨーロッパ州が3割強、北アメリカ州が1割強となる。国際連合食糧農業機関 の統計資料 (FAOSTAT) によると[29] 、2006年の世界生産量は6億0595万トン。これは米の生産量(6億3461万トン)に匹敵する。トウモロコシ (6億9523万トン、2006年)についで生産量の多い農作物である。上位5位までの生産国、すなわち、中華人民共和国 、インド 、アメリカ合衆国、ロシア 、フランスで総生産量のちょうど5割を生産している。
コムギの反収は、国によって大きな差がある。2012年の10アール当たりの反収は、集約型の農業が行われているヨーロッパでは、フランス が760 kg、ドイツ が733 kg、イギリス が666 kgと非常に多収である[30] 。日本では411 kgであり、ヨーロッパ諸国の3分の2程度である[31] 。これは、日本では、本州 以南では、水田 稲作 の裏作として副次的に作付されることが多く、コムギに最適な土壌 管理等がなされにくいこと、また、北海道以外では、コムギの登熟期が梅雨 にかかってしまい、収穫量や品質に重大な影響をあたえることがしばしばあるためである。なお、コムギの大生産国であるアメリカ合衆国では311 kg、オーストラリア では215 kgと反収は低い。カザフスタン に至っては79 kgと、主要な生産国の中では最低レベルである[30] 。こういった国々では反収の低さを農園の広大さで補い、粗放栽培 型の農業が行われている。ちなみに、コムギにおいては反収は先進国 と発展途上国 の間に明確な差は見られない。エジプト や、1980年代 から1990年代 にかけてのジンバブエ (ジンバブエ政府の政策により、2000年代には350 kg前後にまで激減した)のように10アール当たりの反収が550 kgから650 kgにものぼり、世界最高水準に達している途上国もある一方で、ロシアの反収は177 kgと、フランスの4分の1未満にすぎない[30] 。
日本の生産量は、86万300トン(2005年)、うち北海道での生産が全体の65%を占める。世界的に問題となる生育期の降水量に関しては、本州以南も申し分ないが、逆に、本州の多くでは、収穫期に梅雨 入りしてしまい、コムギの収量・品質に多大な影響を与えてしまうため、国内では梅雨がない北海道が、栽培に適するためである[32] (熟したコムギは水分を得ると発芽する〈穂発芽 〉。穂発芽を起こしたコムギの値段は一気に下がる[32] )。
国内の栽培品種についても、梅雨の存在が影を落としている。とりわけ東北南部以南では、水田における裏作として伝統的に栽培されてきた、登熟が早く、収穫期の多湿多雨に比較的強い、うどん等の在来麺類向けの品種が専ら生産され、パン向けは国内生産の半分に満たない。これは、パン向けのコムギは、特に収穫期の高温多湿多雨に弱いため、国内では品質・収量ともに安定的な生産が難しく、農家が敬遠する傾向があるため[32] である。しかし、近年のコムギ国際価格の高騰と、製パン向けの国内産小麦に対する根強い国内需要があることから、パン向けの品種改良や、数少ない国内産のパン用小麦の争奪戦がおこなわれている。
小麦の国別生産量(2006年)
国名
順位
生産量
比率
中華人民共和国
1
1億447万トン
17.2%
インド
2
6935万トン
11.4%
アメリカ合衆国
3
5730万トン
9.5%
ロシア
4
4501万トン
7.4%
フランス
5
3537万トン
5.8%
カナダ
6
2728万トン
4.5%
ドイツ
7
2243万トン
3.7%
パキスタン
8
2128万トン
3.5%
トルコ
9
2001万トン
3.3%
イギリス
10
1474万トン
2.4%
イラン
11
1450万トン
2.4%
アルゼンチン
12
1400万トン
2.3%
ウクライナ
13
1400万トン
2.3%
カザフスタン
14
1350万トン
2.2%
オーストラリア
15
982万トン
1.6%
貿易
コムギは最も貿易量が多い穀物である。2017年時点の総輸出量は1億9679万トン、総輸入量は1億9135万トン[注 1] 。例えばトウモロコシの総輸出量は1億6125万トン、米は4452万トンに過ぎない。
主な輸出国はロシア 3303万トン (16.8%)、アメリカ合衆国 2730万トン (13.9%)、カナダ 2206万トン (11.2%)、オーストラリア 2199万トン (11.2%)、ウクライナ 1731万トン (8.8%)、フランス 1522万トン (7.7%)、アルゼンチン 1310万トン (6.7%) の順であり、この年間輸出量1000万トンを超す7か国で全輸出量の3/4を占める。近年(2009年-2019年)の輸出順位上位5カ国は、アメリカ合衆国(10カ年平均輸出量 2627万トン/年)、ロシア(同 2285万トン/年)、カナダ(同 2060万トン/年)、フランス(同 1883万トン/年)、オーストラリア(同 1686万トン/年)の順であり、ロシア他、ウクライナ、カザフスタンなど旧ソ連地域や東欧諸国の輸出の伸びが大きい。
一方、近年(2009年-2019年)の輸入順位上位5カ国は、エジプト (10カ年平均輸入量 1037万トン/年)、インドネシア (同 772万トン/年)、アルジェリア (同 712万トン/年)、イタリア (同 709万トン/年)、ブラジル (同 624万トン/年)の順である。なお、同期間の日本の平均輸入量は563万トン/年であり、主な輸入相手国は、アメリカ合衆国 (54.8%)、カナダ (28.9%) 、オーストラリア (16.2%)である[35] 。
コムギは国際的な商品先物取引 の対象商品であり、国際取引指標 はシカゴ商品取引所 (CBOT)において形成される。また、 ユーロネクスト においても取り扱われている。
日本に輸入される小麦の銘柄としては以下のようなものがある[36] 。
アメリカ合衆国
( 硬質小麦)
ハード・レッド・ウインター小麦(HRW)
ハード・レッド・スプリング小麦(HRS)
ダーク・ノーザン・スプリング小麦(DNS)
ノーザン・スプリング小麦
ソフト・レッド・ウインター小麦(SRW)
(軟質小麦)
ソフト・ホワイト小麦(SWW)
ウェスタン・ホワイト(WW)
ホワイト・クラブ小麦
カナダ
カナディアン・ウェスタン・レッド・スプリング小麦(CWRS) - 硬質小麦
オーストラリア
オーストラリア・スタンダード・ホワイト小麦(ASW) - 中間質小麦
オーストラリア・プライム・ハード小麦(APH) - 硬質小麦
日本において
流通関連の法規制
日本 国内において、麦(小麦・大麦 ・はだか麦 )は食糧法 により価格統制 が存在する。輸入小麦の政府への売渡価格については2007年4月、年間を通じて固定価格であった「標準売渡価格制度」が廃止され、新たに「相場連動制」が導入された[37] 。小麦価格には穀物取引量が世界最大のシカゴ商品取引所 の相場が影響する。
食糧法 第三章により、麦は政府の価格統制が存在する。
(麦等の輸入)
第四十五条 麦等の輸入を行おうとする者は、国際約束に従って農林水産大臣 が定めて告示する額に、当該輸入に係る麦等の数量を乗じて得た額を、政府に納付しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 第四十二条第五項において準用する第三十条第二項の規定による政府の委託を受けて輸入する場合
二 第四十三条の規定による連名による申込みに応じて行う政府の買入れ及び売渡しに係る麦等を輸入する場合
三 国内の需給及び価格の安定に悪影響を及ぼすおそれのないものとして政令で定める麦等を輸入する場合
政府麦
四十二条により、政府は麦等の輸入を目的とする買入れを行うことができる(政府麦)[38] 。
日本政府は、商社が輸入した小麦を購入した上で、政府売り渡し価格を製粉会社に提示、引き渡す制度になっている。製粉会社はマークアップ と呼ばれる上乗せ金 16,868円/tを政府に、拠出金 1,530円/tを、農水省OBが中心の組織、製粉振興会 に支払うことで、原料を購入することができる。売り渡し価格は、年3回(現行年2回)、10%程度の増減幅で見直されているが、上記の情勢や天候に大きく左右されれば国際価格に影響を受ける。
2006年頃から上昇傾向にあった小麦価格は、2007年には主にオーストラリアでの大規模な不作によって小麦価格が高騰、それに伴い政府価格も改定し[39] 、パンや焼きそばなど小麦粉を使う製品の値段が上昇した。2008年10月には、売渡価格が20%値上げされるほか、2009年には国産買取価格も30%値上げされた。
外国産小麦の政府買入価格と政府売渡価格の推移(円/トン)[40]
年度
政府買入価格 ①
政府売渡価格 ②
政府管理経費 ③
上乗せ額 ②-(①+③)=④
④/② (%)
売買価格差 ②-①=⑤
⑤/② (%)
1960
26,119
36,627
1,826
8,682
23.7
10,508
28.7
1965
27,252
35,988
1,889
6,847
19.0
8,736
24.3
1970
27,385
35,425
2,077
5,963
16.8
8,040
22.7
1975
61,506
47,109
4,551
▲18,948
▲40.2
▲14,397
▲30.6
1980
54,032
73,209
6,488
12,689
17.3
19,177
26.2
1985
45,741
84,465
5,761
32,963
39.0
38,724
45.8
1990
29,391
67,891
8,362
30,138
44.4
38,500
56.7
1993
27,308
60,421
7,359
25,754
42.6
33,113
54.8
1998
28,628
52,562
8,952
14,982
28.5
23,934
45.5
2003
27,506
48,065
4,815
15,744
32.8
20,559
42.8
2004
28,707
47,994
4,101
15,186
31.6
19,287
40.2
2005
27,955
48,097
3,813
16,329
34.0
20,142
41.9
2006
32,997
47,918
2,920
12,001
25.0
14,921
31.1
2007
47,623
50,835
1,922
1,290
2.5
3,212
6.3
2008
62,598
72,893
1,986
8,309
11.4
10,295
14.1
2009
31,170
56,386
2,128
23,088
40.9
25,216
44.7
2010
32,382
47,339
1,580
13,377
28.3
14,957
31.6
2011
39,716
56,795
1,557
15,522
27.3
17,079
30.1
2012
34,412
49,635
1,633
13,590
27.4
15,223
30.7
2013
40,104
56,085
1,885
14,096
25.1
15,981
28.5
2014
42,362
59,013
2,207
14,444
24.5
16,651
28.2
2015
39,955
58,933
2,403
16,575
28.1
18,978
32.2
2016
32,100
50,733
2,430
16,203
31.9
18,633
36.7
2017
36,027
51,831
2,342
13,462
26.0
15,804
30.5
2018
38,178
54,843
2,407
14,258
26.0
16,665
30.4
2019
35,275
52,160
2,479
14,406
27.6
16,885
32.4
政府流通外の麦
四十五条により、政府および政府に委託を受けた以外の者が日本に小麦を輸入する際には、輸入関税 に加え、国内生産農家保護のため麦等輸入納付金を納付しなければならない[41] 。
品種等
日本における農林水産省 が認定する「農林認定品種」は、2010年までに170種を超える[42] 。日本に輸入される外国産の小麦は、複数品種をブレンドした銘柄で取引される。作付面積は農林水産省調べ[43] で、産年による。
品種名・銘柄名
農林番号
旧系統名
誕生年、開発者など
元になった品種(♀×♂)
特 徴
リンク
農林61号
小麦農林61号
西海75号
1944年 佐賀県農業試験場
福岡小麦18号 × 新中長
短稈で、穂数が多く、倒れにくく多収、萎縮病、縞萎縮病、黄銹病の抵抗性が強く、赤かび病の被害が少ないことから、日本の水田裏作栽培で最も多く栽培されている品種である。記録の残る1959年以降、1980年までおよび1984年より1987年まで日本での作付面積が第1位で、最大約22.4万ヘクタール(1962年)栽培された。現在でも関東 以西の地域では基幹品種である。
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ホロシリコムギ
小麦農林114号
北見23号
1974年 北海道立北見農業試験場
北系8 × 北海240号
1981年より1983年まで日本での作付面積が第1位で、最大約8.7万ヘクタール(1981年)栽培された。現在も北海道において秋まき小麦として栽培されている。
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チホクコムギ
小麦農林126号
北見42号
1981年 北海道立北見農業試験場
(北見18号 × 北見19号)F1 ×北系320
1988年より1996年まで日本での作付面積が第1位で、最大約8.6万ヘクタール(1992年)栽培された。かつての北海道の基幹品種で、うどん用品質が良かったが、耐病性等が劣った。
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ホクシン
小麦農林142号
北見66号
1995年 北海道立北見農業試験場
北見35号 × 北見42号
「チホクコムギ」の後継として開発され、1997年より2010年まで日本での作付面積が第1位で、最大約10.5万ヘクタール(2006年)栽培された。「チホクコムギ」に比べてやや早生で耐病性等が優る。北海道において秋まき小麦として栽培されている。
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きたほなみ
小麦農林168号
北見81号
2006年 北海道立北見農業試験場
北見72号 × 北系1660
「ホクシン」の後継として開発され、2011年より日本での作付面積が第1位の小麦品種である。「ホクシン」に比べて穂発芽性や品質が優る。北海道において秋まき小麦として栽培されている。
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小麦農林10号
小麦農林10号
東北34号
1935年 岩手県農業試験場
ターキーレッド × フルツ達磨
短稈 (半矮性 )、直立するため間作に便利で、耐寒耐雪性が強い。 緑の革命 の原動力として世界的なコムギの生産性向上に大きく貢献した。
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農林26号
小麦農林26号
近畿10号
1937年 奈良県農業試験場
新中長 × 埼玉小麦29号
かつての岐阜県 、奈良県 、香川県 等の基幹品種で、関東から九州まで広く作付けられ、最大約4.9万ヘクタール(1961年)栽培された。
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農林50号
小麦農林50号
北関東28号
1942年 群馬県農業試験場
小麦農林9号 × 新中長
関東を中心に最大2.1万ヘクタール(1959年)栽培された。
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農林52号
小麦農林52号
中国33号
1943年 岡山県農業試験場
新中長 × 江島神力
かつての岡山県 、徳島県 の基幹品種で最大約1.3万ヘクタール(1959年)栽培された。
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農林53号
小麦農林53号
東海29号
1943年 愛知県農業試験場
埼玉小麦29号 × 鴻巣26号
主に関東から東海にかけて最大約1.2万ヘクタール(1959年)栽培された。
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農林64号
小麦農林64号
北関東34号
1944年 群馬県農業試験場
小麦農林9号 × 新中長
福島県 および関東を中心に最大1.4万ヘクタール(1961年)栽培された。
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アオバコムギ
小麦農林81号
東北79号
1951年 農研機構 (旧東北農業試験場)
小麦農林7号 × Ardito
強力銘柄品種であり、かつての宮城県 、福島県等の基幹品種で、東北、関東を中心に最大約2.1万ヘクタール(1962年)栽培された。
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シラサギコムギ
小麦農林95号
中国79号
1956年 農研機構(旧中国農業試験場)
新中長 × 近畿35号
中国、四国の基幹品種として、最大約2.1万ヘクタール(1963年)栽培された。
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ムカコムギ
小麦農林108号
北見11号
1969年 北海道立北見農業試験場
(Kanred × ナンブコムギ)F1 × 北成9号
小麦急増期の北海道の基幹品種として、最大1.6万ヘクタール(1975年)栽培された。
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タクネコムギ
小麦農林115号
北見30号
1974年 北海道立北見農業試験場
東北118号×北系221
北海道で最大約1.2万ヘクタール(1982年)栽培された。成熟すると穂が赤色になることから赤麦とも呼ばれる。主に醤油 醸造に用いられる。
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シロガネコムギ
小麦農林117号
西海120号
1974年 農研機構(旧九州農業試験場)
シラサギコムギ × 西海104号
兵庫県 、佐賀県 等の基幹品種で、関東から九州にかけて最大約2.9万ヘクタール(1988年)栽培された。
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セトコムギ
小麦農林120号
西海134号
1976年 農研機構(旧九州農業試験場)
西海113号 × 農林26号
かつての大分県 等の基幹品種で、中国、四国、九州で最大約1.0万ヘクタール(1987年)栽培された。
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アサカゼコムギ
小麦農林123号
西海144号
1978年 農研機構(旧九州農業試験場)
西海115号(後のヒヨクコムギ) × 西海120号
中国、九州を中心に最大約1.2万ヘクタール(1987年)栽培された。
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ニシカゼコムギ
小麦農林129号
西海154号
1984年 農研機構(旧九州農業試験場)
西海120号 × ウシオコムギ
かつての福岡県 等の基幹品種で、九州を中心に最大約1.6万ヘクタール(1989年)栽培された。
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シラネコムギ
小麦農林131号
東山17号
1986年 長野県
北陸49号 × 東海80号
秋播き型の早生品種で、耐寒性に優れ主に長野県 、宮城県で栽培されている。
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チクゴイズミ
小麦農林141号
西海171号
1996年 農研機構(旧九州農業試験場)
関東107 号 × アサカゼコムギ
農研機構が育成した、西日本 を中心に多く栽培されている品種である。「農林61号」など従来の品種に比べアミロース 含量が低い「低アミロース品種」で、柔らかくモチモチとした食感が特徴である。
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きたもえ
小麦農林149号
北見72号
2001年 北海道立北見農業試験場
59045(後のホクシン)×北系1354
縞萎縮病抵抗性やや強、耐雪性やや強、耐倒伏性強で、北海道において秋まき小麦として栽培されている。
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ミナミノカオリ
小麦農林160号
西海186号
2006年 農研機構
Pampa INTA × 西海167号
暖地向けに改良された、蛋白質に富みパン や醤油 に向く品種である。
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もち姫
小麦農林糯166号
2006年 農研機構
もち盛系C-D1478 × (もち盛系C-G1517 × 盛系B-8605)F1
実用性が改良されたもち小麦(低アミロース)品種である。
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さぬきの夢2000
香育7号
2000年 香川県農業試験場
西海173号(後のニシホナミ) × 中国142号
讃岐うどん 用として開発された製麺用の品種で、半数体育種法で作出された。讃岐うどんのなめらかさ、粘り、かたさ(噛みごたえ)に最適化するため、「チクゴイズミ」ほど低アミロースにはしていない。
登録品種データベース
春よ恋
HW1号
2001年 ホクレン農業協同組合連合会
ハルユタカ × Stoa
北海道で栽培されているパン用の春播き品種で、日本で初めて葯(やく)培養により育成された小麦品種である。
登録品種データベース
きぬあかり
2011年 愛知県農業総合試験場
愛知県における奨励品種であり、2018年(平成30年)時点では愛知県の小麦作付面積の80%以上を占めている。
登録品種データベース
オーストラリア産スタンダードホワイト (ASW )
オーストラリア
オーストラリア の製麺用小麦銘柄で、日本へ輸出するために数種類をブレンドして、安定した高品質を確保している。背丈が長く倒れ易い、赤かび病に弱い。
デュラム
パスタ で用いられている、グルテン (蛋白質 )の多い種 (T. durum )で、日本での栽培は難しく、ほとんどが輸入物である。超硬質で黄色いのが特徴であり、通常、セモリナ粉 (粗挽き粉)として用いられる。
プライムハード (PH)
オーストラリア
強力粉用銘柄でパンや中華めん等の原料として用いられる。
ウエスタンホワイト (WW)
アメリカ
通称「ダブダブ」。薄力粉用銘柄で、菓子やケーキ用として用いられる。クラブコムギ (T. compactum ) を含む。
ダークノーザンスプリング (DNS)
アメリカ
強力粉用銘柄で、パンの原料として用いられる。
カナダウエスタンレッドスプリング (CWRS)
カナダ
強力粉用銘柄で、パンや中華めん等の原料として用いられる。
セリアック病
セリアック病 という遺伝性 免疫疾患 をもつ人はグルテン に反応することがある。先進国の一般人の少なくとも約1%がセリアック病を持っている。コムギのグルテンにも反応する[44] [45] [44] 。
脚注
注釈
^ 総輸出量と総輸入量が等しくならないのは、輸送に要する時間が原因である。
出典
参考文献
関連項目
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
コムギ に関連する
メディア および
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