大河原 邦男(おおかわら くにお[注 1]、1947年12月26日 - )は、日本のメカニックデザイナー[2]。
日本のメカニックデザイナーの草分け的存在で、『機動戦士ガンダム』に登場するモビルスーツのデザインで知られる[3][4]。
東京都稲城市出身[2]。息子はアニメーターの大河原烈[要出典]。
人物
日本のアニメーション作品で初のメカニック専門のデザイナー[3][4]。代表作は『科学忍者隊ガッチャマン』、『ヤッターマン』をはじめとするタイムボカンシリーズ、『機動戦士ガンダム』とそのシリーズ、『装甲騎兵ボトムズ』、『勇者王ガオガイガー』を含む勇者シリーズなど多数[4]。特に『機動戦士ガンダム』が起こした大ブームにより、自身の名前と「メカニックデザイナー」という職種が社会に認知された。
略歴
実家が機械を扱う仕事を代々営んでいたことから建設機械等を頻繁に見かける環境に育ち[5]、子供の頃から機械や物を作るのが好きだった[6][7]。そのため、家の倉庫にある機械部品を遊び道具代わりに工作に励む少年時代を過ごした[8][7]。
東京都立町田高等学校卒業後、東京造形大学グラフィックデザイン科に入学。1年後にテキスタイルデザイン科に転科し、機織や染め物などを学ぶ[4]。
卒業後、オンワード樫山に入社し、紳士服の企画を担当[9][10]。その後、キムラタンに転職し、子ども向けブランド「おとぎの国」の企画を担当するが、東京支店の企画部廃止で専門店向け営業職となる[4]。同僚の女性との結婚を機に、「同じ職場に二人ともいるのは不都合があるのでは」と考えて会社を辞める[9]。
1972年、新聞広告の求人欄を見てタツノコプロに応募し、美術課に背景を描く係として採用される[2][9][注 2]。きっかけは結婚式で仲人に無職と紹介されるのが心苦しかったため。入社の決め手は妻の実家に近かったことだった[6]。アニメや漫画に興味がなかったので、アニメの制作方法も知らなかった[11]。
入社してすぐに『科学忍者隊ガッチャマン』のメインスタッフとなり、番組タイトルロゴを手掛ける[12]。そして美術のかたわらメカデザインも担当していた上司の中村光毅[注 3]に「メカデザインをやってみないか」と声をかけられ、メインメカ以外の敵メカや自動車などの乗り物などをすべて任される[4][9]。番組エンディングでは中村と共に「メカニックデザイン」とクレジットされ、アニメ業界で初のメカ専門のデザイナーとなる[3][13]。
1976年、タツノコプロを退社して中村と「デザインオフィス・メカマン」を設立する[2][9]。フリー後初仕事の『ゴワッパー5ゴーダム』で、初めてメインメカのデザインを担当した[1]。タイムボカンシリーズ第2作『ヤッターマン』で中村のデザインしたメインメカ以外のすべてのメカを担当[12]。これ以降、すべてのシリーズ作品を担当した[注 4]。
1978年、メカマンを退社してフリーランスとなる[2][9]。転職したタツノコ時代の知人に声をかけてもらい、『無敵鋼人ダイターン3』からサンライズ制作作品に本格的に参加するようになる[9][注 5]。続いて参加した『機動戦士ガンダム』がプラモデルの大ヒットにより社会的ブームとなり、以降、メカニックデザイナーという職種が広く認知されるようになった[9][15]。『太陽の牙ダグラム』『装甲騎兵ボトムズ』では高橋良輔監督と組んでミリタリー系のリアルロボットを追求[16]。一方で『勇者シリーズ』のようなヒーロー的なスーパーロボットのデザインも手掛けた。
デザイナー活動40周年にあたる2012年、第16回文化庁メディア芸術祭功労賞を受賞し[17]、その功績を振り返るデザイン展覧会が各所で行われた。大河原のメカを見て育った世代と仕事する機会が増え、海外メーカーからのオリジナルメカの依頼や[18]、実物の工業製品のデザインを引き受けることもある[19][20][21]。
地元の稲城市では「MECHANICAL CITY INAGI PRESENTS 大河原邦男プロジェクト[22]」と称して、公式キャラクター「稲城なしのすけ」のデザイン、大型モニュメントやデザインマンホールの設置、トークイベント「メカデザイナーズサミット」の開催など、様々なコラボ企画を推進している。
作風
- サンライズ作品では『機動戦士ガンダム』『装甲騎兵ボトムズ』などのリアルロボットアニメから『勇者シリーズ』などのスーパーロボットアニメまで担当し、タツノコプロでもシリアスな『科学忍者隊ガッチャマン』の一方でタイムボカンシリーズなどのギャグアニメも担当するなど、手掛ける作品のジャンルは幅広い[9][12]。
- デザインするうえで気を付けていたのは、子どもの成長に悪影響を及ぼさないこと[9]。またタツノコでの経験から、あまりグロテスクだったり過激だったりするものは控えて、あくまで子供たちがワクワクするようなメカを考える習慣が付いたという[23]。
- メカデザインの業界では漫画好きやアニメ好きという人物が多いが、自身はそれらに全く興味がない[4][6]。子供の頃から漫画家やアニメーターになりたいと考えていたわけではなく、業界に入ったのも偶然である[9]。そのため、メカデザイナーとして目指しているのは、監督が求めているものを提供する完璧な職人であること[24]。商業アニメの場合、デザインの良し悪しではなく、スポンサーサイドからの制約の範囲内で演出家のイメージを具体化し、アニメーターのほとんどがその形を頭の中に思い浮かべることできるようにするのがプロの仕事だと思っている[9][24]。アニメーションはチームプレーであり、アーティストの感性が強すぎると職業として成り立たないと考えているので、作品に自分を出さずにクライアントからの要望に出来る限り近付けることを目指して努力する[9][24]。そのため、デザインを考える上であまり苦労を感じたことはないという[9]。『装甲騎兵ボトムズ』のスコープドッグは唯一、自分が「やりたい」と温めていたデザインを制作側に提案したケースだった[16]。
- デザインに際しては、「現実にこのロボットを製造する場合、どういう工程で作るのか」までを考える[6]。実際に木工や金属加工で模型を作ることもあり、すぐにCADで図面に起こせるものをイメージしてデザインしている[6]。ゲーム会社からオファーが来るようになってからはパソコンや3DCGについても勉強するようになった[25]。
- 同じメカニックデザイナーでも、絵が好きな人間とメカが好きな人間がいて、ほとんどは前者だが、自身はメカやモノを作るのが好きなタイプであり、1970〜1980年代のロボットアニメ全盛期にはそのことが有利に働いたという[7][9]。1970年代以降、アニメのスポンサーは主に玩具会社になったため、変形や合体をプレゼンテーションしなければならず、その際、大河原は他のデザイナーのように絵を描くのではなく、立体模型を作っていた[7][9]。その方が絵を見せるよりもずっと理解しやすかったからである[7][9]。そのためスポンサーの受けが良く、だいたい即決してもらえたという[9]。
- シンプルな機能美も重視しているが、人間は見たことがある物を目にするとそれだけで『リアルだ』と認識するものなので、ザクの露出したパイプのように、あえて不合理なデザインでリアルさを訴求することもある[6]。
- 民族衣装やコスチューム、仏像などからもヒントを得てロボットをデザインしており、ガンダムも侍のチョンマゲや裃から着想を得ている[26]。
- 『ヤッターマン』とリアルロボットでは、『ヤッターマン』の仕事の方が面白いと思っている。理由は「どんなデザインをしても、誰からも批判されないから」[25]。
- 絵の彩色はポスターカラーで行っている[25]。
『機動戦士ガンダム』について
- 大河原の代表作であり、1980年にバンダイからプラモデルが発売されると全国的に品切れが続出し、社会現象にまでなった[15]。
- 大河原に依頼が来たのは、『ガンダム』の作画監督の安彦良和が、デザインをSF考証にうるさいスタジオぬえから別のスタジオに変えようとしたため[27]。当時、メカデザインを専門にやっていたのがぬえの他は大河原の所属するメカマンだけだったことと、安彦がエンターテインメント性を考えた場合、タツノコプロ出身者が良いのではないかと考えたのが理由だった[28][29]。初め、途中参加だった大河原には作品のイメージが十分に伝わっていなかったため、安彦がロバート・A・ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』に掲載されたスタジオぬえの宮武一貴デザインの装甲強化服「パワードスーツ」の挿絵をもとに、後に「ガンキャノン」となるラフデザイン画を描いて見せた[28]。しかし、そのデザインでは主役ロボにはならないと却下されたので、代わりに大河原は宇宙服をモチーフにしたロボットをデザインしたが、これも主役向きでないということで却下された[26][29]。そこで大河原は、新たに"侍"をモチーフにしたロボットを提案した[26]。監督の富野由悠季の「それまでの円柱・角柱のロボットデザインから抜け出したい」という要望を考慮して腕や足に人間の筋肉のような要素を入れながらも、当時主流だった巨大ヒーローとしてのスーパーロボットの流れのままにデザインしたため、顔には人間のような口が付いており、安彦から「18メートルあるものに口があるのはおかしいだろう」というクレームが来てマスクが付けられた[9][29]。そしてそのデザインを安彦がクリンナップし、配色も決めたものが「ガンダム」の決定稿となった[29]。またスポンサーから主人公側には3体のロボットが必要だと言われ、大河原が安彦のラフをクリンナップした「ガンキャノン」と新たにデザインした「ガンタンク」もラインナップに加えられた[28]。
- 一方、商品になる予定の無かった敵のジオン側のメカは、主役に負けない、むしろそれを食うようなものを作ろうという反骨精神のもと、自由にデザインしたという[28][30]。その当時、敵メカは商品化を前提としておらず、デザインに対する制約も少なかった[7][28]。また富野も「モノアイ(単眼)」にだけはこだわっていたが、それ以外は基本的に自由にデザインさせてくれたという[31]。
- 「ザク」のデザインは、防毒マスクとオンワード樫山時代にたくさん描いた背広のデザインを参考にしている[9]。また動力パイプがむき出しなのは兵器としてはウィークポイントだが、あるのとないのとでは頭に残るイメージの強さがまるで違ってしまうので、あえてそういうデザインにしている[9]。大河原は「ザクができてはじめて連邦軍とジオン軍を合わせた作品全体のデザインコンセプトが完成したと思っている」と発言している[26][31]。
- ザクに続いてグフとドムをデザインすると、それまで何も言ってこなかった富野が次々にラフデザインを描いてよこすようになった[28][31]。アイデアを出すたびに富野から2倍の量の案が返ってくるので、そのやりとりで当時4作品を同時に抱えていた大河原には物理的に時間が無くなってしまい、途中から富野の案のままデザインするようになった[28][31]。
- 主役側の地球連邦軍と敵方のジオン公国のモビルスーツはそれぞれ、前者は連合国軍のアメリカ、後者はドイツ軍という自分なりの分け方をしている[28]。特に意識していたわけではなく、太平洋戦争の余韻を感じている世代なので、自然とそうなってしまったのだという[26]。同世代の富野や安彦など当時のクリエーター全員に当てはまることで、安彦が描くジオン軍のキャラクターがドイツ兵っぽかったのもそのせいだという[26]。
- ガンプラブーム以前、ガンダムも含めてロボットアニメの立体物商品といえば「超合金」などのダイカストモデルだったので、STマーク(玩具安全基準)を通過するための条件がかなり厳しかった。そのため、デザインの段階から尖っている部分は全部省かなくてはならず、強度的にも子供が落としたときのことまで考えなければならなかった[15]。
エピソード
- 『科学忍者隊ガッチャマン』第59話に大河原と中村光毅をモデルにしたオガワラー博士とその助手のナカモーラという現実とは上司と部下の立場が逆転したキャラクターが登場する[1]。
- 『逆転イッパツマン』第38話にタイムリース社社員の大河原営業部員が登場する。
- リメイク版『ヤッターマン』第59話にイラストではあるが大河原本人が登場しており、ボヤッキーから「オオカワラちゃん」と呼ばれている。
- 「好きなメカ ベスト3」として、『機動戦士ガンダム』からザク、ハロ、ムサイ、同作以外には『装甲騎兵ボトムズ』に登場するAT(アーマードトルーパー)、『銀河漂流バイファム』に登場するバイファム、『蒼き流星SPTレイズナー』に登場するレイズナーを挙げている[32]。モビルスーツバリエーションについては、プラモデルに同梱されているパンフレット[注 6]によると「ガンダムMSVシリーズはアニメーションでは作画上の制約から採用されないようなデザインを模したもの。いわゆる、デザインの遊びだったのですが、プラモデル化されたことにより多くのファンの方に親しまれているのは光栄」と述べている。また、他のインタビューでは「こんなに長く続くものだとは思っていなかった。もう少し考えて描くべきだった」とこぼしている[33]。
- 「私の仕事は、アニメの現場と玩具屋さんの橋渡し」と語り、他と全く違うアプローチをし「首だけメカ」等をデザインに取り入れたラインナップを多発させた、青島文化教材社「合体シリーズ」の奇抜なアイデアに対して「私はアニメで、アオシマさんは玩具で、それぞれ子供の夢を育むという目標を持っていたという点では一緒だったのかも知れませんね」と発言し、肯定的な立場を取っている[34]。なお、この際、「首だけダイターン」を見て、「それにしても、これ、金属で作ったら良いオブジェになるだろうなあ」との感想も述べている[34]。
作品年譜
アニメ作品
漫画作品
ゲーム作品
その他
著書
展覧会
脚注
注釈
出典
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