構図の最も優れた要素の1つは馬である。対角線に配置された馬は構図の大部分を占め、画面に力強い躍動感を与えており、馬と交差する聖ゲオルギウスはイタリア時代にルーベンスが熱心に行った古代彫像とルネサンス期のミケランジェロ・ブオナローティの研究を示している[2]。ドイツのミュンヘン市立グラフィックアート美術館(英語版)に所蔵されている、ティツィアーノの作品を模写したルーベンスの素描に基づいている可能性も指摘されている[2]。『聖ゲオルギウスと竜』の騎士と跳ね馬のモチーフは、その後の作品に一定の重要性を持っている。事実、ルーベンスはこのモチーフを再利用し、狩猟をテーマとする『カバとワニ狩り』(The Hippopotamus and Crocodile Hunt)や『ライオン狩り』(The Lion Hunt)といった作品を制作している[5]。
来歴
制作経緯は不明だが、一説によると聖ゲオルギウスを守護聖人とし、またルーベンスが何度か滞在したことがある北イタリアの海運都市ジェノヴァの、サン・アンブロージョ教会(the Church of San Ambrogio)のために制作された可能性が考えられる[1][2]。しかし絵画は完成後もルーベンスの手元に残り続けた。ルーベンスの死後、絵画は遺産の一部として売却され、フェリペ4世は1645年に弟であるスペイン領ネーデルラント総督フェルナンド・デ・アウストリアを介して本作品を含むいくつかの絵画を購入した[1][2]。スペイン王室のコレクションに加わった絵画は1674年にマドリード郊外のエル・パルド宮殿(英語版)に移された。約100年後の1772年には新王宮に移され、1814年から1818年かけて王宮の王子の寝室に飾られた。フェルナンド7世の死後の1834年、プラド美術館に所蔵された[1][2]。