欽定訳が権威を保っていた長い期間に、聖書学も進化を遂げてかなり精密な正文批判が行われるようになっていた。そこで、19世紀も終わる頃になって大幅な改訂作業がイギリスで行われ、1880年に新約聖書が、1884年に旧約聖書が発行されて改訂版聖書(Revised Version : RV)と呼ばれている。欽定訳の誤訳、蓋然性の低い解釈、難解な表現、翻訳内部の矛盾を大幅に修正し、ギリシア語文法の「アオリスト」を過去形で統一している。
このRVの作業はイギリスで行われ、アメリカの聖書学者も参加したが、その意見は多くは本文には採りいれられず、付録に記録されただけであった。そこで、こうした学者達がアメリカ標準版聖書(American Standard Version : ASV)を1901年に発行している。実質的にはRVのアメリカ版と評価されている。
その後、根本的な改訂を目論んだ改訂標準訳聖書(Revised Standard Version : RSV)がアメリカで編纂され、1946年に新約聖書が、1951年に新旧合わせた聖書がアメリカ教会協議会(National Council of Churches: NCC)によって発行された。評価も高く、RSVはアメリカのプロテスタント教会で公式に用いられる聖書となり、欽定訳聖書から切り替えられていったのである。このRSVは1989年に改訂され、新改訂標準訳聖書(New Revised Standard Version : NRSV)となったが、このNRSVの編集にはカトリックや正教会やユダヤ人学者が招かれており、世界的な共同訳の流れに乗った事業でもある。また改定標準訳聖書の改訂版としては標準英語訳聖書(English Standard Version:ESV)もCrossway Booksにより作られて、ホテルや未信徒へ向けて聖書を無料配布している国際ギデオン協会は2013年からNKJVに変えてESVを配布している。
RSVはイギリスでも読まれるようになったため、イギリスでも新しい翻訳を作る声が強くなり、1961年に新約聖書を、1970年に聖書全体が発行された。これは新英語聖書(New English Bible: NEB)といい、伝統的な欽定訳の古めかしい英語を離れて現代イギリス英語の用法を大胆に持ち込んだ翻訳である。「分りやすい」という評価の反面、意訳に偏りすぎて原意を損なっている箇所が多いという批判がある。その批判を受けて、翻訳方針が修正された上で改訂英語聖書(Revised English Bible: REBが1989年に発行された。このREBにもカトリックから公式のメンバーが出ており、共同訳に近いものとなっている。また、REBとNRSVからは女性差別表現について、原文から外れない範囲で男性向けの言葉を削除している(any man → any, man → humanなど)。
アメリカのRSVやNRSVはできるだけ直訳で訳すという方針のもとに作られているが、イギリスでのNEBのように出来るだけ多くの人間にできるだけ分りやすい聖書を届けようという考え方からは、また別の翻訳方針が生まれることになった。世界中に聖書を安価に配布することを目的としたアメリカ聖書協会が発行したグッドニューズバイブル(1966年に新約、1976年に旧約聖書、Today's English Version = TEVとも呼ぶ)がそれであり、分りやすい表現を最優先した翻訳であるが、原文が持っていた曖昧な文章も無理に分りやすくし、ときに解説的に過ぎる翻訳文になり、ときに重要な概念までも歪めているとも批判されている。神の子の「血」という表現を新約聖書からすべて消去したことなどが有名である。このGNB(TEV)は、聖書協会が世界中で進めている各国語への聖書翻訳事業でもお手本として参照され、強い影響力を与えた。日本語訳聖書で言えば(旧)共同訳聖書がそれに該当する。また、聖書協会はユダヤ人差別を取り除いたとするContemporary English Bible: CEBも発行している(新約は1991年、新旧約合わせて1995年)。また、徹底的な意訳で行われたリビングバイブル(The Living Bible: TLB、1971年)も知られており、何度も改版されている。
新世界訳聖書(New World Translation of the Holy Scriptures: NWT)は(1950年-1961年全訳)にエホバの証人で構成された「新世界訳聖書翻訳委員会」によって翻訳され、「ものみの塔聖書冊子協会」によって出版された聖書である。エホバの証人側が字義訳であり最も正確な翻訳であるとする一方、エホバの証人に反対するキリスト教団体からは、エホバの証人の教理に合わせて翻訳されているという批判や、非英語圏においては、英語からの重訳聖書であり学問的な水準に疑問があるという指摘もある。
新アメリカ聖書(New American Bible: NAB)は1970年に新旧約併せ発行されたカトリックの聖書であり、 それまでカトリックが拘ってきたウルガタラテン語標準訳を離れてギリシア語とヘブライ語の原典から翻訳された。翻訳方針としては、REBやTEVとは異なり、原文に出来るだけ近く訳そうというものでRSVの方針に近い。RSV(あるいは改訂されたNRSV)、REBと並んで現代英語翻訳聖書を代表する訳だとも言われている。カトリックが本格的な英語訳聖書を持ったことで、英語圏においてもようやく共同訳事業の可能性が現れたとされており、前述のNRSVやREBのプロテスタント聖書翻訳へ参加者を送るようになった。
アメリカではRSV/NRSVとTEV/GNBを不満足なものとして、聖書無誤謬の立場から翻訳された新国際版聖書(New International Version: NIV)も現れている。これはファンダメンタリズムや福音主義の諸教会で用いられ、近年は福音主義の勢力増大と共に発行部数を伸ばしている。また、福音主義系教会の世界伝道に伴ってNIVを手本とする各国語翻訳も現れており、影響力を与えている。日本語訳聖書で言えば新改訳聖書がこれに該当すると言われることもあるが、もし影響があったとすれば1970年出版の新改訳聖書が、1978年出版のNIVに影響を与えたと考える方が妥当である。最新の英語訳としては、コモン英語訳聖書(Common English Bible: CEB)がある。
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